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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第八章 黒の落失
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8/3 人ならざるモノ


 私がエイヴァへのヘイトをあおったのにはもちろん理由がある。それは、さっき役に立たないと罵った原作『明日セカ』内の中で一節を思い出したからだ。やはり腐っても『原作』、役に立つ部分もあった。先ほどの評価は早計であったと撤回しよう。


 ともかく。『主人公の少女』は『ジルファイス・メイソード』たちに異世界人であると証明するには時間がかかっているが……『物語の黒幕・エイヴァ』と対峙した時には、名乗るよりも先に『エイヴァ』は『主人公の少女』が『異世界人』であることを看破するというシーンがあるのだ。動揺する『主人公パーティ』が理由を問えば、『魔たるエイヴァの目は異質たる存在を看破する』ことが分かった――つまり。


 私が今すぐこの場で、腕の中の少女を異世界人であると証明する最善の方法は、『エイヴァの目を少女に向け、且つエイヴァ自身に証言をさせる』こと。これを『なんでそんなことができると知っているのだ』と思われずに遂行する必要があった。なぜならばその瞬間私に疑いが向く。それはダメだ。ランスリー家で保護が難しくなる。よって、たたき出した結論のもと行動したのが今である。実にうまくいったと思う。計画通り、と顔に出さずに思った。


「……『外』? それは、他国、ということではなさそうね?」


 は? という困惑の表情のまま固まってしまったエルとジルに先んじて、私は切り込む。すると意外そうにエイヴァは瞬いた。


「む? シャーロットもわかっていなかったのか? そなたはわかるものだと思っていたぞ!」

「……あなたの中で私は何なのかしら? あなたと一緒にしないでほしいわね」

「シャーロットはシャーロットであろう? 我より強き外道の娘だ」

「なるほど。あなた、学習能力が相変わらずないのね? 後でゆっくりお話があるわ。でもそうね、今はこの子のことを聞きたいの。あなたの言う『外』って、どこのことかしら?」


 エイヴァへの教育的指導を心に決め、だがしかし今は脱線はいけないと己を戒め、私は再度、エイヴァに問うた。エルとジルは困惑から一転哀れみを込めてエイヴァを見ていたが、助ける気はなさそうであった。


「えっ。……う、うむ。『外』は『外』だぞ? この世界の『外』だ」


 エイヴァは私の発言に顔をひきつらせたが、それでも答えたあたり、答えねばさらにひどいことになると直感したのだろう。


「……この世界の、『外』、ですか……?」


 そんなエイヴァからの、想定外の返答にジルが一瞬戸惑いをあらわにしたが、そこはジル。一瞬で好奇心に代わったようだ。その隣のエルはまだ目を白黒させているが、話についてこれていないわけではなさそうだ。


「うむ、『外』だな。そもそも『世界』とは一つではない」


 エイヴァは何でもないことのように、語りだした。


「この国に隣の国があるように、世界にも隣り合ったりなんだりと無数にあるのだ。我らが住まうのはそのうちの一つにすぎぬ」


 エイヴァは言いつつ、一歩私の腕の中の少女に近づき、顔を覗き込むようにする。それから一つうなずいて勝手に納得したように続けた。


「この娘はこの世界のものとは纏う『色』が異なるからな。界を渡ってしまったのだろうな」


 私たちの視線は一斉に少女に向く。セーラー服、つまりはこの世界には存在しない服を着てはいるが、基本的に私たちと同じ人間の少女がそこにはいる。しかし、エイヴァは『違う』と言い切れるらしい。


「『高位の者』ではなさそうであるし、『歪み』でもできたか? その娘が眠っているだけなのは幸運であったな。普通は『巻き込まれ』でも無事ではないぞ? 我でも初めて見たが、そんなこともあるのだな!」


 明るく、エイヴァは締めくくった。己の発言には特に疑問を覚えないらしい。それに聞き入るものの、だんだんと顔を見合わせ、目線を交わし、黙りがちになる私たち。


「ぬ? どうした? 我、答えたぞ? 駄目だったか?」

「いえ、大丈夫よ。……強いていうなら、あなたはなぜそういったことを知っているの? その『異界』に行ったことがあるのかしら? 『外』に詳しいの?」


 黙り込んだ私たちにエイヴァは不思議そうに問うたが、私はエルたちとまた目を見合わせ、問いを躱して別のことを聞く。


「行ったことはないぞ? 最初から『外があること』を知っていただけだ。理由はわからんな! 判っているのは今の我には界を渡る権限はない、ということだ。自由に行き来できるのは我より『上』の権能を持つ者らであろう。まあ、無理をすれば我にも界を破れるだろうが……この世界は滅亡するであろうな。少し前ならそれもよかったが、今は興味がないな!」

「そう。何よりね。この世界を存分に楽しんでほしいわ」

「そうだねシャロン。エイヴァ君はまだまだこの世界、知らないこといっぱいだもんね」

「ええ、もちろんですよシャロン、エルシオ。他所に興味を持つ暇などありませんからね。人間は進歩する生き物ですから」


 すごく笑顔で言ってきたエイヴァの回答に、はじける笑顔で私たちは返した。間髪入れない返答だった。そして私たちはまた、目を見合わせる。それにとうとうエイヴァがぷっくり、ほほを膨らませて腹を立てた。


「むぅ! さっきから何なのだ! 何か我に隠し事か? 仲間外れはダメなのだぞ!」


 ぷくぷくの頬だが、ちょっと涙目なのはそんなに仲間はずれが寂しいのだろうか。別にそんなつもりはない、というか、いい澱むのは言いにくいことだからなのだが……、うん。


「仲間外れじゃないのよ? たださっきからあなたが説明してくれることが……ねえ、」

「ええ、信じられない、というのではないのですよ? ただ、なんといいますか、」

「うん、エイヴァ君がそういうことで嘘言わないだろうなってことはわかってるんだよ? でも、あのね……」


 私とジルは苦笑を浮かべ、エルは困ったように眉を下げる。しかし拗ねかけているエイヴァは引き下がらない。私たちはまたまた顔を見合わせ――


「エイヴァって、そういえば『人外』だったのよね……って、実感しただけよ。だって昨今のあなた、すっかり『残念な魔』だったんだもの。残念じゃないところ、久々に見たわ」

「そうですね。久々にあなたが『人外』たる証を見た気がしました。力の無駄遣いだろうというのはいつも見ていますが、そういったことも、できたんですね」

「忘れてたわけじゃないんだけど……エイヴァ君長生きしてるんだよね……。んん、なんていうか、物知りなんだね」


 口々に、私たちは答えた。そう、私たちはエイヴァに隠し事をしていたわけではない。ただちょっと、そうほんの少し、……エイヴァがお馬鹿さんな言動をとることが多く、私たちはいつもいつでもそれに振り回されているものだから、実に真面目でこの世界の深遠の一端ともいえる知識がその口から当然のように転がり出てきたことに驚いただけなのだ。普段とのギャップに激しい違和感を覚えたともいえる。私自身が水を向けたにもかかわらず予想以上に衝撃を受けてしまった。それだけだ。まあ日ごろの行いのせいであって自業自得であるが、……案の定、私たちの回答に一瞬ぽかんとした後、今度こそ完全に拗ねてしまったエイヴァをなだめる羽目になったのだ。












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