7/73 罪科
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遠い遠い、いつかの過去だ。知っている。覚えている。……否、思い出した。
深い深い記憶の中。慟哭が聞こえた。『彼』は己の咎を、嘆いていた。
『……ごめん。ごめん。……あなただけに、負わせてしまう。私は、……私が、』
抱えきれない後悔と。ぶつけるべき場所の見つからない憤怒と。喪失への絶望を『彼』はないまぜにして、謝罪を繰り返す。
けれど、そんな『彼』に、『私』は笑った。
『嘆くなとは言わないわ。でも、失ったものは同じ。背負ったものは、同じだわ。あなたも、私も。別に私だけが責任を取らされるわけじゃない』
『けれど! 私にもっと、力があればっ! あなたは、こんな……』
噛みつくような、それでいて身を裂くような叫びでもって反論する『彼』の額を、『私』はぴしりと人差し指で軽くはじいて止める。
『いいえ、どうにもならなかったわ。『あの子』を止められなかった、その時点でもう、決まっていたのよ』
『……』
唇をかんでうつむいた『彼』をしり目に、『私』は髪をなびかせ踵を返す。
『――それでも、あなたが私に済まないと思うのなら、『役目』をきちんと、果たしなさい。それがすべてを治める、一番の近道でしょう?』
『けれど、それは、……どれほどかかるか、わからない……。それで『あいつ』が、救われるかどうかすらも、』
はじかれるよう上がった『彼』の顔は悔し気に歪んでいた。あれほどに苛烈に激怒していたというのに、やはりそれでも、甘いのだなあ、と思う。『私』も、『彼』も、『あの子』には。
『そうね。救われてほしいと思うわ。でもそれは『あの子』次第よ。私たちにできるのは手助けだけ。……『あの子』は自力で、足搔かなければいけない。まあ、それでも『あの子』は私たちのかわいい『弟』だから、今回の後始末くらいはしてあげちゃうけれど、ね』
ほんと、仕方のない子ね、いつまでたっても。
茶化すように『私』が言えば、『彼』は一瞬瞠目し、それから苦笑を浮かべる。
『……そう、ですね。私たちの『弟』だから、仕方ない。信じるしか、ないですね……。まったく、いくつになっても、私たちに面倒ばかりをかけるのだから』
『ふふ、でもあなた、『あの子』がかわいくてしょうがないんでしょ?』
『――それは、……あ、あなたもでしょうが! 『あいつ』のやらかしたことを、あなたが笑ってすましたりするから『あいつ』はいつまでたっても甘えん坊なんです! それで私が叱るはめになるんですよ! もうっ!』
少しからかっただけなのに、『彼』はほほを膨らませて怒る。まあ普段、『あの子』には小言を言ったりなんだりと主に『厳しい兄』の顔をしていたのだから少し、気恥ずかしいものがあるのだろう。でも、少しは気分も浮上したようで、わずかにいつもの調子が戻っていた。
『そうね。それでも今回ばかりは笑って許してあげられなかったから、こうなったのだもの。……大丈夫よ。私は死ぬわけでも何でもないわ』
逸れかけた話題を戻せば、瞬時に悲痛な色をのぞかせる『彼』をなだめるように、『私』はもう一度笑う。
『ですが……やはり、私がその『役目』を』
『駄目よ。そもそもこれは私だからこそなのだから。あなたはあなたの、やるべきことをやりなさい。――私は、あなたを信じているわ』
しっかりと、目を見て告げる。
揺れて、揺れて、嘆いて、憤怒して、後悔し、懺悔し、慟哭を漏らした『彼』の瞳は、
――ようやく、定まった。
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遠い遠い、いつかの過去だ。知っている。覚えている。……否、思い出した。
深い深い記憶の中、いつかどこかで起こった昔々のお話。それは、『私』と『私の家族』の、お話だ。
それから時は連綿と流れ、『今』につながっている。
――そう、だから。だからこそ。『今』を生きる、私は。
私は、決めたのだ。




