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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第七章 或る国の歪
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7/73 罪科





   ✿✿✿




 遠い遠い、いつかの過去だ。知っている。覚えている。……否、思い出した(・・・・・)

 深い深い記憶の中。慟哭が聞こえた。『彼』は己の咎を、嘆いていた。


『……ごめん。ごめん。……あなただけに、負わせてしまう。私は、……私が、』


 抱えきれない後悔と。ぶつけるべき場所の見つからない憤怒と。喪失への絶望を『彼』はないまぜにして、謝罪を繰り返す。


 けれど、そんな『彼』に、『私』は笑った。


『嘆くなとは言わないわ。でも、失ったものは同じ。背負ったものは、同じだわ。あなたも、私も。別に私だけが責任を取らされるわけじゃない』

『けれど! 私にもっと、力があればっ! あなたは、こんな……』


 噛みつくような、それでいて身を裂くような叫びでもって反論する『彼』の額を、『私』はぴしりと人差し指で軽くはじいて止める。


『いいえ、どうにもならなかったわ。『あの子』を止められなかった、その時点でもう、決まっていたのよ』

『……』


 唇をかんでうつむいた『彼』をしり目に、『私』は髪をなびかせ踵を返す。


『――それでも、あなたが私に済まないと思うのなら、『役目』をきちんと、果たしなさい。それがすべてを治める、一番の近道でしょう?』

『けれど、それは、……どれほどかかるか、わからない……。それで『あいつ』が、救われるかどうかすらも、』


 はじかれるよう上がった『彼』の顔は悔し気に歪んでいた。あれほどに苛烈に激怒していたというのに、やはりそれでも、甘いのだなあ、と思う。『私』も、『彼』も、『あの子』には。


『そうね。救われてほしいと思うわ。でもそれは『あの子』次第よ。私たちにできるのは手助けだけ。……『あの子』は自力で、足搔かなければいけない。まあ、それでも『あの子』は私たちのかわいい『弟』だから、今回の後始末くらいはしてあげちゃうけれど、ね』


 ほんと、仕方のない子ね、いつまでたっても。


 茶化すように『私』が言えば、『彼』は一瞬瞠目し、それから苦笑を浮かべる。


『……そう、ですね。私たちの『弟』だから、仕方ない。信じるしか、ないですね……。まったく、いくつになっても、私たちに面倒ばかりをかけるのだから』

『ふふ、でもあなた、『あの子』がかわいくてしょうがないんでしょ?』

『――それは、……あ、あなたもでしょうが! 『あいつ』のやらかしたことを、あなたが笑ってすましたりするから『あいつ』はいつまでたっても甘えん坊なんです! それで私が叱るはめになるんですよ! もうっ!』


 少しからかっただけなのに、『彼』はほほを膨らませて怒る。まあ普段、『あの子』には小言を言ったりなんだりと主に『厳しい兄』の顔をしていたのだから少し、気恥ずかしいものがあるのだろう。でも、少しは気分も浮上したようで、わずかにいつもの調子が戻っていた。


『そうね。それでも今回ばかりは笑って許してあげられなかったから、こう(・・)なったのだもの。……大丈夫よ。私は死ぬわけでも何でもないわ』


 逸れかけた話題を戻せば、瞬時に悲痛な色をのぞかせる『彼』をなだめるように、『私』はもう一度笑う。


『ですが……やはり、私がその『役目』を』

『駄目よ。そもそもこれは私だからこそ(・・・・・・)なのだから。あなたはあなたの、やるべきことをやりなさい。――私は、あなたを信じているわ』


 しっかりと、目を見て告げる。


 揺れて、揺れて、嘆いて、憤怒して、後悔し、懺悔し、慟哭を漏らした『彼』の瞳は、



 ――ようやく、定まった。





   ✿✿✿





 遠い遠い、いつかの過去だ。知っている。覚えている。……否、思い出した(・・・・・)


 深い深い記憶の中、いつかどこかで起こった昔々のお話。それは、『私』と『私の家族』の、お話だ。


 それから時は連綿と流れ、『今』につながっている。

 ――そう、だから。だからこそ。『今』を生きる、私は。




























 私は、決めたのだ。















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