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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第七章 或る国の歪
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7/71 その未来は想像し得るか(ジルファイス視点)


 私たちは、目を見合わせた。そこに同じ乾いた笑いを見た。なぜならば、そう。『ヴァルキア帝国第一皇女シルヴィナ・アセス・ヴァルキア』との婚姻には、ある程度の身分がなければ釣り合わない。そしてやはり仲の良さも重要だろう。帝国皇帝の一人娘にして溺愛されている彼女が嫁ぐのに、政略のみの愛のない婚姻は諾とされないはずだ。かつ身分だけではない、ある程度の能力の高さや容姿の良さもなければならない。


 これらの条件をすべて満たす、『メイソード王国の者』となると、どうしても。


「……私か、エルシオ、あなたが最も条件に当てはまる人物でしょうね」

「……今は、ドレーク卿もラルファイス殿下も余裕なさげですけど、冷静になったらそのあたり、思いいたって行動されそうですよね」


 無理強いするような方々ではないでしょうけれど、というエルシオ。しかし私と彼の考えは同じだ。無理強いは確かに、されないだろう。皇女殿下のお気持ちもある。そんなことを強行すればジッキンガム卿も黙ってはいないだろう。


 ……だがだからと言って運に任せて何もしないわけもない。ドレーク卿も兄上も腹黒とは言えない性格をしているが、ゆえに目的のためにできる努力は惜しまないだろう。だからつまり、きっかけ作りや雰囲気づくりからはじまる外堀の埋め立ては、されそうだ。すごく、されそうだ……。


 私とエルシオは顔を見合わせる。思いは、やはり同じだ。シルヴィナ皇女殿下が悪いわけではない。彼女はかわいらしい女性であるし、十分魅力的だ。暴走する幼い面もあるが、その背負う責務や立場は理解されている、聡いお方だ。


 だがしかしそれがイコール恋愛感情になるかといえば、別の話だ。親しくはさせていただいているが、どうにもシャロンとのやり取りを見ているせいか、愛らしい妹のようにしか、思えない。思えないのである。


「……限りなく起こりそうな未来ですよね……。どうかすると、シャロンまで手を貸しそうな気すらしますよね……」

「……実に、困りますね……」


 そこでシャロンが出てきたら、私としては複雑極まっていっそ泣きわめきたい気もする。私たちはどちらからともなく、深く深くため息をついた。そしてもはやどこから逃避したいのかもわからないけれど、目の前の喧騒に再び視線を戻す。起こり得そうな未来ではあっても今のところ打つ手は、残念ながらない。下手な行動は藪蛇になりかねないからだ。


 それはエルシオも同じなのだろう。心労を共有した彼は淡く、笑った。


「……すみません、お話、聞いていただいて。……とりあえず、僕、エイヴァ君を御せなかった責任を取って、収めて、来ますね」


 そうして彼は、意を決し、愛語りやまぬドレーク卿と羞恥心に殺されそうな兄上、半泣きのアーノルド殿という混沌へ向かって踏み出したのだ。


 そうして彼が光魔術を駆使して見事ドレーク卿を手に負えない酔っ払いから正気に戻している間に、私は私で、暢気にもこの状況下において寝こけてはばからないエイヴァという名の人外に教育的指導をすべく、ほほえみを装備した。


「――さて、エイヴァ? いたずらっ子には、すこぉし、私から、お話があります」


 ガっとその肩をつかみ、非常に穏やかで優しい声で、私は声をかけた。そうするとそろそろ叱られる空気というものを理解したのか、面白いようにエイヴァは跳ね起きた。


「じ、じるふぁいす……? 我、我、……え? な、なんだ? 我、悪いことしてないぞ!」

「そうですか。では、『何が悪かったのか』というところから、教えて差し上げますからね」

「えっ。えっ?」

「まずは、さあ、エイヴァ。お話を聞く姿勢をとりましょう? 寝転がったままなんてお行儀が悪い、とシャロンもいつも言っているでしょう?」

「う、うむ……」


 そして、エイヴァが姿勢を正したのを契機に、私は懇々と、人の話はきちんと聞かなけらばならないというところから始まり、いたずらであんな酒を飲ませてもし体調を崩したりすることがあったらどうするのか、という注意を交えつつ、やっていいことといけないことについて語った。途中でエルシオがそれは優しいほほえみをたたえて参加してきたが、それくらいがちょうどいいだろう。私とエルシオはもはや認めざるを得ない保護者の心境で、団結した。


 ――が。何とか収まりつつあった室内に、嵐は飛び込んできたのだ。……そう、まさに、天井から、転がるように、やってきた。



「―――――坊ちゃま! ええええる坊ちゃまあああああああ!」



 ゴッ! ガッ! と激しい音を立てながら、『彼ら』は転がり落ちてきた。……エルシオの、名を叫びながら。


「えっ?」


 エイヴァに説教をしていたエルシオが声を上げる。そうして振り返った音源の先には、実に痛そうに団子になって転げている、常ならばあり得ない醜態をさらす、ランスリー家の使用人たちが、いたのであった。










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