7/70 関係は巡り巡って、(ジルファイス視点)
これはドレーク卿による、ジッキンガム卿への愛の告白劇場なのだろうか。それとも兄・ラルファイスへの忠誠と敬愛の告白劇場なのだろうか。
ドレーク卿は、何気に語りがうまかった。酒が入っていたこともあり、昼間の疲れもあり、無礼講ということもあり……そこそこに気心が知れた仲であることもあっただろう。まあすべてはいいわけなのだが、私も兄上もエルシオもアーノルド殿も、話に聞き入っていてエイヴァの挙動を見逃してしまった。本日の主題には『エイヴァのお守り』も含まれていたというのに……不覚である。
おかしい、と思った時にはすでに遅かった。ドレーク卿は完全に出来上がり、呂律も怪しいながらにジッキンガム卿への恋心と兄上への忠誠を真っ赤な顔で繰り返し言いつのってはばからなかった。眼中にないとばかりの私たちは認識が追い付かず呆けたが、渦中の兄上はこれ以上なく隅から隅まで赤面してどうにか熱烈な愛の告白をやめさせようとしていた。だがしかし渦中の人物たる兄上の言葉だからと言って酔っ払いと化したドレーク卿は聞いちゃいなかった。いや、聞いてはいたが意味を持って脳に到達していなかったのだろう。
確かにシャロンは、ドレーク卿は聞かなくても割と自分から語ってくれそうだと予測していたが、まさかここまで心情を込めて赤裸々に語りに語るとは思っていなかっただろう。私たちも思っていなかった。
というか、あの兄上をああも赤面させるとはドレーク卿、やるなとついつい思ってしまう。『朗らかでいて男気のある性格かつカリスマ性を持ち、仕事にも真摯で遺憾なく優秀さを発揮するが愛嬌もある王太子』である兄上を慕うものはそれこそ多い。彼らの忠誠や敬愛を告げる言葉を、兄上は嬉しそうに、しかし堂々たるたたずまいで受け取っていた。けれどドレーク卿の形式もないが衒いもない『告白』にはこの照れようである。
それは、兄・ラルファイスにとっても、ルーファス・ドレークという騎士は心許し、信頼している人物なのであろうということを示していた。
……ドレーク卿に熱烈に『師匠』呼びされていたシャロンへと兄上が積極的に助け舟を出さなかったのも、案外……もしかしたらこの兄にしては珍しく、内心ではドレーク卿のシャロンへの対応が面白くなかったから、……なんてことがあったなら少し、面白いかもしれない。シャロンには絶対言わないけれども。
――ともかくも、恋にも前向き、忠義も厚いドレーク卿が兄上についてくれるのは、私も喜ばしく思う。それは偽らざる本音だ。
だが。だが、しかし、である。問題も、あるのだ。
「……あの、殿下」
非常に、控えめな声で、私に話しかけたのは、エルシオだった。
「あの、ドレーク卿のお話、すごく、いいお話だったと思います。ラルファイス殿下との信頼関係も深められているようで、何よりです。エイヴァ君から目を離したのは不覚でしたけど」
いつになく淡々と、告げるエルシオの顔色は心なしか、白い。それはエイヴァを野放しにしてしまった罪悪感からではおそらくない。
ちなみにやらかしたエイヴァはといえば悪戯の結果も見届けずに自由奔放に寝入っている。相変わらず自由な人外である。破壊行為に及ばなかっただけ僥倖と思っておけば救われるのか? 私は救われない。何故ならあの人外のいたずらによってまだまだ止まらずに「でんかだいすきです!」「わかった! わかったからもう勘弁してくれ!」「どどどドレーク卿、ラルファイス殿下も落ち着いてくださいいいいい!」と、荒ぶるドレーク卿と悶える兄上、年長者の責任感からか場を収めようと奮闘するも涙目なアーノルド殿という混沌が広がっている。
そんな中、いつもであればアーノルド殿に加勢し場を収めたうえでエイヴァを叱り飛ばすであろうエルシオが、今は私に顔色悪く語りかけているのである。これはエルシオも、気づいているな、と察した。
「ええ。エイヴァに関しては反省するばかりですが、私も、ドレーク卿のような方が兄上の騎士であれば安心です」
察しはしたが、とりあえず、私は当り障りなく、返す。エルシオも小さくうなずく。その顔色は悪いまま。
「はい。でも、あれですよね。ドレーク卿が忠誠を誓ってらっしゃるのはラルファイス殿下で、恋されているのはソレイラ殿じゃないですか」
「……ええ」
「……ソレイラ殿って、留学中のシルヴィナ様の護衛のためにいらっしゃってるだけで、ヴァルキア帝国の貴族じゃないですか」
「……もちろん」
「つまり、留学が終われば、ソレイラ殿って、帝国に、帰国されますよね」
「……でしょうね」
「しかも、さっきのお話から察するに、留学が終わるまでにドレーク卿がソレイラ殿を口説き落としたとして、そこで主君たるシルヴィナ様ではなくドレーク卿を選ぶソレイラ殿って、ドレーク卿の想うソレイラ殿じゃ、ないですよね? そんなソレイラ殿にあこがれラルファイス殿下に忠誠を誓ったにもかかわらず、殿下を差し置いてソレイラ殿を追っていくドレーク卿、というのもあり得ないですよね?」
「……『生きざまに惚れた』とまで、言っていましたからね」
「はい。……つまり必然的に、シルヴィナ様の留学が終了時点でお二人は離れ離れになりますよね」
「……恋人のために主君から離れるという選択肢は、お二人ともないでしょうね」
「でもドレーク卿、ソレイラ殿を諦める気は微塵もなさそうです」
「……ええ、一途ですね」
「一途ですよね。けれどそうすると、次期国王陛下であられるラルファイス殿下がヴァルキア帝国に移住するということが不可能な以上、王位継承権のないシルヴィナ皇女殿下がメイソード王国に嫁いで来られるというのが最も穏便ですよね」
「……まあ、それがドレーク卿の信念を貫く、最も穏当な方法でしょうね」
「……その方法自体は選択肢の一つとして否定する気はないんです。でも、あれですよね。シルヴィナ様と、婚姻を許されるメイソード王国の独身男性って、……」
「……」
一瞬の沈黙に、私たちは静かに、目を見合わせた。




