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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第七章 或る国の歪
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7/69 すべてを差し出すその先に(ルーファス視点)


 マーク・ビオルト侯爵。


 かのお方を、私は尊敬していた。的確な指示と状況判断力、陛下へも臆さず諫言をためらわないお方。真面目で忠義一筋であるところも敬愛したし、厳しすぎるほどの礼儀やマナーへの意識も見習っていた。他者を見出す力があると宰相様がおっしゃられていたのを聞いたこともある。


 けれどおそらくは、かのお方もまた、私とは違った理想主義者であったのだろう。そしてその『理想』には私の『夢』は合致しなかった。相違していた。だから、私は排除されたのだ。


 ビオルト侯爵は、『王族』を愛していた。そこに『完全』を求めるほどに、深く、愛しておられたのだ。……私がそれを知ったのは、ラルファイス殿下の傍に従うようになってからだけれど。


 今。数年前にビオルト侯爵が異動したのち、私は近衛騎士に抜擢された。それからも研鑽を積み、今がある。現在は比較的ラルファイス殿下を警護する任務が多いが、私は殿下の『専属』ではない。陛下に従うこともあれば、ジルファイス殿下の命によって動くこともある。


 『夢』があった。『夢』を諦めかけた。きっとビオルト侯爵の意見も正しいから、私は迷っていた。ずっと、迷っていたのだ。


 けれどジッキンガム卿は、ひとかけらの躊躇もなく告げた。己の忠誠のありかを。心臓をささげた相手を。父と同じまっすぐに射抜く瞳で。


 ソレイラ・アキト・ジッキンガム卿は、初めてまみえた、同世代で、似た立場の、私の『夢』の体現者だったのだ。


 許された気がした。『夢』を諦めなくてもいいと。『ただ一人の主に仕える騎士でありたい』と願うことを。迷わなくていいのだと、気づかされた。ビオルト侯爵の示した価値観は、私にとっての呪縛だった。


 どちらが正しいのか? どちらもきっと一面正しく、一面間違っている。絶対はない。国に所属する以上望まぬ仕事もあるだろう。けれどささげる忠誠もなく迷うばかりの中途半端な心根の騎士など必要ないのだ。それでは何も、守れない。


 同時に、ずっと、ずっと、求めていた私の守るべきお方は、心臓をささげたいお方は、ラルファイス・メイソード王太子殿下なのだと、自覚したのだ。


 かつて、殿下の抱えた鬱屈を私は知っている。それを乗り越えられた強さも、かの方の優しさも、そばにいながら迷っている私を知っていたのだろうに見守って下さった器の大きさも。


 弱音を誰にもはけないこのお方をお支えしたいのだ。そうして殿下が作る国を、守りたい。


 だからジッキンガム卿と、皇女殿下のようになりたいと思った。その心の強さにあこがれた。父にあこがれたように。


「……そうです、最初は、憧れだったのです。けれどいつしか、ジッキンガム卿から、目が離せなくなって、でも彼女にあこがれる人はたくさんいますし、あのように美しい女性ですし、カッコいいですし、すごくかっこいいですし、とにかくもう父の言う『この人だ』と思える人とは、私にとってジッキンガム卿なのだと、思って、私は、私は……」

「……」

「それで、それで、やはり彼女以上に愛せる女性はもはやいないといいますか、ですがやはりジッキンガム卿は人気がありますので、振り向いていただきたくて、何度も言葉を尽くしてしまって、面倒だと思われていたらどうしたら、でも、それでもですね、どうしても取られたくなくてですね、あとやはり彼女は私の憧れでもありまして、まだまだ未熟な身ですが、彼女も、夢も、あきらめようとはもはや思っていないのです!」

「……わかった。判ったから一度黙ろうかルーファス」

「私の愛はジッキンガム卿に捧げますが、私の心臓は、忠誠は、ラルファイス殿下にお捧げしているのです」

「ああ。私もお前を信頼している。ありがとう。誇れる主人であれるよう努めるつもりだよ、ルーファス。だが一度黙るんだ、ルーファス」

「でんかあああああ。ですから、私は、わたしは、殿下の騎士です……! 一生お仕えいたします……!」

「わかった! わかっている! もちろんついてこい! 私の背後を任せるのはお前だ! でもあれだ! 今は落ち着け!」


 ――話しているうちにどうしてか、私は気分が高揚してきて、しかしどうしてか目には涙が浮かんだ。なぜだろう、混乱している。けれど伝えなければ。言葉にしなければ伝わらないのだ。なぜ、めのまえの殿下はお顔がまっかっかなのだろうか? ジルファイス殿下は苦笑されているような……? 視界が少し、揺れている気もする。おかしい、ふわふわする……。


 この時、私は気づかなかった。皆様が寝酒をたしなまれる中、私はこれでも殿下の護衛騎士としてお酒はほんの一口、あとは水のみにとどめていたのだが、話に途中で飽きたエイヴァ殿がいたずら心の赴くまま、こっそり水を酒にすり替えていたことを。話に夢中、というか羞恥心のあまり途中で気づかぬまますり替えられたそれを一気飲みしていたことも。その酒が、国内有数の度数の高い酒だったということにも。


 つまりはこの時、私は立派な酔っ払いと化して、普段は言わぬようなことまで赤裸々に暴露しまくっていたのである。


 それに気づいたのは、様子のあからさまにおかしい私を見て取ったエルシオ様が状況を改善するべく、光魔術にて酔い覚ましをしてくださった、後のことだった。





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