7/68 緋色の見る夢(ルーファス視点)
ソレイラ・アキト・ジッキンガム卿に惹かれたのは、単純な言葉で言ってしまえば、その生きざまに惚れたからだ。
私には。――私にも、『夢』がある。
……私の人格形成、そして『夢』には、やはり生家が大きく関係している。
ドレーク男爵家は代々騎士を多く輩出する家だ。そして代々『一目ぼれ』で伴侶を選ぶ家でもある。他家からの評価は真面目、実直、そしてやや頑固……というよりは思い込みの激しい一面あり。
一応、そういった周囲の声は知っている。剣で生きていくと決めているが、同時に家と領地を背負う立場なのだから。そして例にもれず私、それに妹のシアもそんな性質を見事に継承していることを自覚しているし、実父である現ドレーク男爵も言わずもがなだ。
――ただ。他家にはあまり知られていないこともある。それは『一目ぼれ』で伴侶を選ぶ、ということもなのだが、当代においては当主夫妻の万年新婚ぶり、もであった。惚れて惚れられて結婚に至った二人だからか。いやおそらくはそもそもの性格なのだろうが、とにかく私たちの母はふわふわしていた。貴族女性にあるまじきふわふわ具合だった。そしてそんな母をとにかく愛し、大事にしているのが父で……。
両親が睦まじいのは、悪くはない。私たちのことも大切に愛し慈しみ育ててくれる自慢の両親だ。だがしかし。だがしかし、いかんせん二人そろうと本当にふわふわしているのだ。ふわふわ……しているのだ……。あれはいつだったか。出入りの商人に延々と子供……つまり私とシアがいかに天使なのかを語って消耗させていたことがある。そして私たちを割と際限なく甘やかそうとする傾向もある。父は、単体ではそんなことはないのだが、母を挟むと、うん。……うん……。
よって、幼少期、私とシアは決意した。私たちが、しっかりしなければならない、と。
そのために今も『真面目、実直』という評価を何とか裏切らずにここまでやってこれている。『思い込みが激しい』というのは、まあ……夢中になると周りが見えなくなるのが欠点であることはわかってはいるのだけれど。
と、まあそんな両親の相愛ぶりには苦労させられることもあるが、憧れでもある。
『いつか、この人だとしか思えないひとが、お前たちにも現れるよ』
幸せそうに言った父の言葉が、少なからず私たちに影響を与えているだろう。そして、もう一つ。
『ルー、シア。私の心は妻に捧げたけれど、私の心臓は、陛下に捧げているのだよ』
まっすぐに射抜かれた視線に、父の誇りのありかを知った。その時からその言葉は、私の『夢』になったのだ。
いつか。いつか、私も、この心臓をささげる、主に出会えるのだと、夢見て、信じた。
……それが揺れたのは、騎士として王城に勤めることになってからだった。
学生の頃から、自分で言うのもなんだが私は優秀だった。もちろん努力は怠ったことなどないけれど、注目を集めることも多かったし、その分周囲の期待も大きかったと思う。けれど学院を卒業し騎士団に入団してから数年。私はその期待に応えられず、平騎士としてくすぶっていた。
……実績が、なかったとは思わない。魔物の討伐に警護任務、巡回などの通常任務も書類などの雑務も手を抜いたことはない。何をもって評価を正当とするのか、若輩の私にはまだわからないが……異動や昇進の発表があり、同期が徐々に出世をしていく中で私は取り残されていた。直属の上司や同僚たちは不当だ、おかしい、と代わりに怒ってくれることもあったが、あの頃は己のふがいなさばかりを呪っていた。
今、思うのなら。おそらくは当時、騎士関係の人事権を握っていた人物との相性が悪かった、ということだったのだろう。いや、考え方の相違というべきか。
――この国の伝統として、騎士は入団の際に告白式をする。自負、あるいは目標、あるいは決意。たった一言に己の騎士道を込める。
あの時私は、『ただ一人お方に忠誠をささげること』を、誓った。それが夢だったから。それを信じて、疑わなかったから。
けれど『その方』は私とはまた違う考えを持っていらっしゃった。
『騎士が仕えるべきは王族。ささげるべき忠誠は王族のもの。なぜならばその尊い方々の御身を守る矛であり盾である騎士は、その個々の脆弱な意志によって力を左右されてはならないのだから』
それはある意味で、正しい。仕える主を一騎士が自由意思で選べるわけではない。守るべき王族は一人ではない。究極は国王陛下をお守りするのが責務だが、つまり我々騎士は王族イコール国に仕えているのだ。
現在は戦時ではなく、現国王陛下が即位されてからは平和な時が流れていることもあるし、私の同僚の意識もどちらかといえば私のような理想を持つ者より現実的に職務に忠実である者が多かった。
けれど。だけど。……夢を捨てられないのが、悪いのか。憧れは憧れだと、現実を見るべきなのか。
期待されていた。力は確かに、あったと思う。それでも当時の人事責任者は私の持つ、捨てられぬ『夢』がいつか害悪となることをおそらく危惧していた。
その方の名は、マーク・ビオルト侯爵。元宰相補佐。殿下方の教育係でもあったお方だ。




