7/66 騎士たるものならば(ルーファス視点)
ジルファイス殿下の『そうでしたか』の言葉の後、ふたたび室内を沈黙が支配しそうになったが、しかしそこは殿下。さらりと最初の問いに戻してくださった。
「それで、つまり、何をきっかけにドレーク卿はジッキンガム卿に『一目ぼれ』なさったのですか?」
殿下は笑顔だった。ジッキンガム卿も鉄壁の無表情であるが、殿下は鉄壁の笑顔なのだなと思った。少し向こうでは「おいあやつ何故早く答えんのだ。ジルファイスがすごく笑っているぞ」「シャーロット様もエルシオ様も、ああいいうときは微笑んでいらっしゃいますよね。なぜでしょうか」「ふむ。威嚇ではないのか? 『わかっているな?』という強迫だろう」「あ……なるほど。もしかすると単純に楽しんでいらっしゃるということも……『どう相手してあげましょうか』みたいな」「なるほど。そういう考え方もあるか。貴様なかなか賢いな!」「うん、エイヴァ君もアーノルドさんも、その話題僕の前でしないとダメ? そこに僕の名前上がってるのに? こんな時どういう顔をすればいいのかわからないんだけど」「「……笑えばいいのではないか(でしょうか)?」」「この流れで笑えとか君たち何なの?」などという会話が聞こえた気もしたが、それにかまっている場合ではないだろう。
「ええと、ですね……」
慌てて、私は、思い出す。『思い出す』というほど、遠い記憶でもないのだけれど。
――あれは、晩夏。皆様が通われる学院の夏季休暇も終わりが近づいたころ、公開ではないものの、それでも公式な催しの一つとして、ジッキンガム卿を筆頭とした女性騎士を含むヴァルキア帝国皇女護衛騎士団と、メイソード王国騎士の、合同演習が行われた。そして私も、もちろんそこに参加していた一人だ。
「ジッキンガム卿がヴァルキア帝国騎士の代表を務められ、我が国の代表はもちろん現騎士団長様でした。演習にはもちろん実践的な手合わせも組み込まれており、合同演習のため帝国騎士の方々と我らとの混合戦が予定されていました」
「――ああ、そういえば、そうだったね。覚えているよ。……少し、騒ぎがあっただろう」
「ええ、はい。その演習です」
あれか、というようにラルファイス殿下が発された言葉に、私はやや苦笑を返さざるを得ない。
「私も、耳には入れていますが……騎士団は管轄していませんからね。詳しくは存じていないのですが……その時、ジッキンガム卿と対戦されたのですか?」
主に王城魔術師をまとめる立場にあられるジルファイス殿下は少し記憶を掘り返し、思い当たられたようだ。
「最終的には、手合わせをさせていただきました。……騒ぎのもとは、少々異なるのですが」
人数の違いもあり、事前に対戦の組み合わせは決められていた。そして私の最初の対戦相手は同僚の騎士で特に問題はなかったのだが、ジッキンガム卿の相手が、問題だったのだ。
その男は昨年、騎士団に入団した新参だったのだが、だからこそ格上のジッキンガム卿に相手をしていただくことで成長を促そうという意図だったのだと後に騎士団長は語っていた。しかし当の本人は自覚が足りない……というか、ヴァルキア帝国がなぜ『武の国』と呼ばれるのかまるで理解していなかったようだ。女性であるというだけでジッキンガム卿を侮り、それだけでは飽き足らずぐちぐちと彼女に絡むという無礼までも働いた。正直、相手がジッキンガム卿でなければ穏便には済ませてもらえなかっただろうと、後から詳しく内容を聞いて、私すらも思った。
「――しかし、ジッキンガム卿はさすがに国の名を背負う騎士であられる。最後まで冷静に対処をしてくださいました。あいにくと私はその時の配置が若干離れておりまして、直接耳にすることはかなわなかったのですが……」
のちに、近くで演習を行っていた同僚が耳にした内容を伝えきいた事には、ジッキンガム卿は言ったそうだ。
『騎士ならば、言葉よりも剣で語りましょうか?』
『男女も見目も、関係ありませんよ。才能だってすべてではないと私は思っています。だから私はそれを言い訳に諦めることも卑下することもしません』
……と。それを聞いた皆様の反応は一致していた。
「男前ですね」
「実に男前ですねぇ」
「うん、男前だね、ジッキンガム卿は」
「僕知ってますよ。学院にソレイラ殿の親衛隊ができてるのを」
「あれはシャーロットにも意見する胆力のある輩だからな!」
発言順に、ジルファイス殿下、アーノルド様、ラルファイス殿下、エルシオ様、エイヴァ殿だ。まったくもって私も同意せざるを得ない。ジッキンガム卿は実に、男前な女性騎士なのである。相対していた騎士が反比例するように男を下げていて同僚として恥じ入るばかりだ。
「ジッキンガム卿は見事その騎士との対戦で勝利を収められたのですが……しかしやはり認められなかったのでしょう。それとも引っ込みがつかなくなったのか……もめごとの気配が消えませんでした。おそらくジッキンガム卿の発言のちょうどあとだったのでしょうか、私が介入したのは」




