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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第七章 或る国の歪
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7/63 あるいは安息を欲し、(ジルファイス視点)


 結論から言うと、私はおじいさまを丸め込むことに成功した。陛下……確執のある息子と比較されたことに憤慨したのか、『子供の世界にまさか大人が入ってこないでしょう』という揶揄をそのまま受け取ったのか、あるいはほかに思うところがあったのか。


 いずれにせよやや不満げながらも彼は引き下がった。それに伴って私も後を部下に任せ、ランスリー家の使用人経由でエルシオに連絡を取り、旧タロラード公爵領に転移、実に平和に楽しそうに、時に破壊行為を挟みつつ戯れるエイヴァ達の輪の中に戻り、現在に至るのである。


 ちなみに、王城にいたランスリー家の使用人は今回のお泊り会に伴ってエルシオについてきた護衛である。アリィだけでも十分事足りるだろうが、アーノルド殿の華麗なる拉致事件のように彼が場を離れることもある。常に複数人体制でエルシオやシャロンは守られているようだ。王族よりも厳重に守られているのではないだろうかと時に疑問に思う。シャロンとエルシオは口をそろえて「彼らに私たち(僕たち)愛されていますから……」と答えていた。悟り切った顔だった。


 なお、そんな時彼らの事情を知っている陛下は「ははは、過保護だよな、うん……」と遠い目をし、王妃殿下は「まあまあ。本当に教育が行き届いていますわねえ」と感心し、兄たる王太子殿下は「あはは、仲が、いいのはいいこと、だね……?」とあらぬ方向を見ながら言いきれていなかった。


 さらに余談だが、本日はランスリー公爵家王都邸での『女子会』、王城での『男子会』という名目があるがゆえに、エルシオにつけられた護衛はすべて男性。ランスリー家に残った使用人はすべて女性らしい。というか、ランスリー家の結界が本日限定で男性を問答無用で放り出す仕様になっているらしい。入れるのはシャロンが例外的に許可を出した時だけだとか。こだわりが深い。


 ともかく。夏院君リグヴァルド・メイソードとエイヴァとの邂逅という最悪の事態は回避に成功した私たちはひそかに安どの息を吐いていた。……まあ、すこし、懸念事項はありもしたのだが。


「エルシオ。余計な世話かとも思いますが……『おじいさま』は多少、『ランスリー』を過剰に気にしていらっしゃるようでした。エイヴァのこともあります……気を抜かないよう」

「夏院君閣下が……? わかりました。ご心配、ありがとうございます」


 旧タロラード公爵領たる現荒野にて。ひそやかに、そんな会話を交わした。お互い表情はあくまで普段通りなまま。気にしすぎかもしれない。しかし軽視はできない。あの日、おじいさまが登城した時にシャロンと顔を合わせた時も、今回、友人同士の集まりに顔を出そうとしたことも。


『ランスリーの令息もおると聞いたのでな、ぜひ、挨拶をしたいと思っているのだが』


 そういった、夏院君リグヴァルド・メイソード。確かに今日招いた友人の中で最も身分が高いのが『筆頭公爵家』のエルシオ・ランスリーだ。だから名前を出したとも考えられる。しかし、今のランスリー公爵家はシャロンを筆頭に、非常に特殊さに磨きがかかっているのだ。そもそも私的な集まりに関して現在は隠居した身である彼がなぜそこまで情報をわざわざ得たのかも気にかかる。


 前ロメルンテ公が体調を崩したこの時に、ランスリー家に探りを入れる……勘繰りたくもなる行為だ。


 ――この国に、『公爵』の位を与えられている家は少ない。その中で最も歴史が古いのが、『筆頭』ランスリー公爵家だ。ランスリー家は古い、古い家だ。メイソード王国が建国する前から、今の王族となる一族に仕え護っていたという。王族が臣籍降下された際に下される『一代限りの公爵位』よりもよほどのこと権威を持っている。かの家に並ぶことができるのは、それこそ王太子殿下の婚約者であるイリーナ様の生家・ロメルンテ公爵家ぐらいだろう。ロメルンテ家もまた古い家柄であるが、こちらは政治の面で王家を支えた。もとは下位貴族だった者が徐々に功績を認められ、長年をかけて公爵まで上り詰めた家。武において王家の矛なり盾となるランスリー公爵家、内政において影に日向に王家を支えるロメルンテ公爵家。時代によって多少の盛衰はあれど、この両公爵家と共に、メイソード王国は発展してきたのだ。


 そして現代――前ロメルンテ公、ひいてはロメルンテ公爵家は前国王であるリグヴァルド・メイソードの盟友であった。対して故ランスリー夫妻――ひいてはランスリー公爵家は現国王アレクシオ・メイソードの盟友であった。両公爵家自体には、シャロンとイリーナ様の睦まじさからもわかるように今も昔も特段亀裂もないし、派閥としても双方が中立派。派閥がはっきりとしたのは戦争以降にはなるが、前ロメルンテ公は戦争を推し進める好戦派のリグヴァルド・メイソードを随分といさめたと聞く。


 だがしかしいさめはしたが最後までおじいさまに付き従ったロメルンテ公爵家と、現国王についたランスリー家。王位交代劇におけるいざこざを考えると夏院君リグヴァルド・メイソードからランスリー公爵家に対しての心証は決して良いものではないだろう。まあ、そんな背景からロメルンテ公爵家への信頼が落ちたと揶揄する輩を退ける意味もあり、ランスリー公爵家を優遇しすぎない意味もあり、兄・ラルファイスの婚約者は最初からイリーナ様一択だったのだが。


 ……何であれ、意図が読めないうちは小さなことでも気に掛けるに越したことはない。まったく、壊滅的に空気が読めないのはエイヴァも同じなのに……、あそこまで突き抜けていないおじいさまは本当に中途半端に感じて、だからこそますます行動を予測しがたい。エイヴァほど欲望に忠実だったなら「なんだエイヴァの亜種か」と思えたのだが。


「面倒くさいですね、本当に」

「はい、本当に」


 私とエルシオが、荒野のただなか、表情だけは其のままに心底疲れた声で言い合ったのは、私たちしか知らないことである。









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