7/62 ……だから?(ジルファイス視点)
「……おじい様」
向かった先。押し問答を繰り広げる私の部下とおじい様は、その滞在する部屋を今にも出んばかりの姿勢だった。そこへ強いて、笑顔を張り付けて、私は声をかける。
「ん? ……おお、ジル! 今、お前たちの顔でも見ようと思っていたところでな……学友を招いておるのだろう? ランスリーの令息もおると聞いたのでな、ぜひ、挨拶をしたいと思っているのだが」
パッと顔を上げ、一瞬瞳をすがめたおじいさまは私を認識すると喜色を浮かべて笑う。そして一気に目的をまくしたてたかと思えば、「この者がなあ、」と少々困った色をにじませ、そっと扉を抑え、おじいさまをとどめる形で眉を下げる私の侍従を見下ろした。
「なかなか行かせてくれぬのだ。お前たちとその友人の顔を見たいだけだと言うておるのに。仰々しいと驚かせてしまうじゃろう? 許可を許可をとうるさくてのう……」
「そうでしたか。申し訳ありませんでした。けれど、あまり責めないであげてください、私が頼んでいたのです。今日は本当に、ごく親しいものだけでの集まりでしたので……よほどの緊急事態でない限り、出入りは制限してほしい、と」
ほほえみを崩さず告げ、侍従には下がっていいという合図を送る。彼は深く私たちに礼をして下がった。私がおじいさまに告げたことは別に嘘ではない。――侍従を含め、私直属の部下たちはエイヴァの正体こそ知らないが、ランスリー家の特殊さなどはおおよそ把握している。ちなみに、ランスリー家所属の黒服集団と『主を愛で隊』なる謎の会合を催しているのも侍従を含む彼らだ。よって、『出入りを制限してほしい』の意味をよく分かっている。それだけの話である。
ともかくも、私の告げた言葉にきょとん、と目をしばたかせたおじいさまは、今度は少しだけ眉を下げた。この人が表情豊かなのは、どこまで素なのだろう、などと勘繰るのは私がひねくれているのだろうか。
「そうじゃったのか。よほど大切な友人なのだな」
「ええ、もちろん」
ここぞとばかりに、満面の笑みで、返す。おじいさまの腹の内は、私には読めないところが多すぎる。だからこそ、こちらの内心を微塵も悟らせるつもりはなかった。そもそもおじいさまはそういうたぐいの妖怪かと思うほどに他人の内心を読むことにたけたシャロンにすら、「何を考えていらっしゃるのか全くわかりませんわね。純粋に孫と交流をしたい祖父の心境なのか、あるいは別の目論見を抱えていらっしゃるのか……。はっきり判るのは、いずれにせよ夏院君閣下が壊滅的に空気が読めないお方であるという事実だけですわね」とため息をついていた。前国王に対しても毒舌は通常運転であるところがシャロンだと思う。まあ、現役国王陛下に対してもさっぱり歯に衣着せないシャロンには今更な話であるだろうけれど。
ともかくも、今は。
「じゃが、顔を見るくらいはよかろうて。とって食うわけもなし。いずれも名家の子息と聞いておるぞ?」
なあ、と目の前で笑う、彼の真意は、どこにあるのだろう。
「……そうですね。……いつか、私から、ご紹介いたしましょう」
「……『いつか』、か?」
「ええ。申し訳ありませんが、おじい様。本日はご遠慮いただけませんか」
笑う。私も、おじいさまも。わずか、増したように感じる相手の威圧感。けれど私も、だてに王族として、この城で十数年、生きてはいない。
張り付ける。崩さない。本心は悟られないように。けれど嘘はつかないで――花が咲くような微笑みを。
「私の、とても大切な、友人ですので。私は彼らを尊重しますし……」
おじいさまは少しだけ、息をのんだ気がした。
「いくら身内とはいえ、『子供同士の関係』に、干渉しすぎるのは無粋というものですよ、おじい様?」
彼は言う。『祖父として、孫の友人に挨拶を』と。
あくまで彼が『祖父孫』という関係性から気安さや譲歩を求めるのであれば、私も同様に『甘受』を求める。すでに仕事も任せられている身ではあるが、私たちはそれでも学生であり、『子供』の範疇だ。そうして『子供であれ』と、求めたのは、『おじい様』自身なのだから。
「――それは、それは。『子供同士の秘密』というわけかの?」
「ええ、私たち、とても親しい、友人なので」
「それは、己の立場の、自覚があってか?」
「もちろん。恥じることは、何も? そして陛下は私と王太子殿下を、信じてくださっていますよ」
「ほぉーう……。なるほど、なるほど、なあ……」
ぎらり、と、おじいさまの年を経てなお鋭さの残る瞳が、光った気がした。




