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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第七章 或る国の歪
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7/60 諸事情につき(ジルファイス視点)


 そうして……荒野(旧タロラード公爵領)にやってきた私たち一行。アーノルド殿は結局拉致されたまま帰ってきていないけれども、まあシャロンのたくらみが発端であるということは判明しているので、命が脅かされるような事態に陥っている可能性はない。精神的に追い詰められている可能性はあるけれどそんなことは今更だと私は思う。


 ともかくも、魔道具を腕にはめ、『持ち主』登録をしてエルシオを『転移先』として登録をした私たちは、ランスリー家使用人が待機する荒野へ先に魔道具を発動して移動したエルシオを追いかける形で、転移を行った。


 確かに、空間をつないだ『門』を潜り抜ける、従来の転移門に比べると、自分自身の体そのものが魔術によって移動するというのは不思議な感覚を覚えた。浮遊感が伴うとは説明されていたが、一瞬とはいえ足元を失う感覚は事前に言われていなければそれなりの衝撃を受けただろう。だが特に強い不快感を伴うわけではなかったし、あれだけの距離を瞬きの間に移動したということの方に驚きが強かった。


「なるほど。これは、思った以上に使い勝手がよさそうですね……」

「面白いね。私はあの浮遊感もなかなか楽しめたかな。感じ方はそれぞれだろうけど」

「ぜひ近衛騎士の装備に導入したいですね! ですがもっと小さいものか、手首に固定してしまえる方が戦闘の邪魔にならないかもしれません」

「自分で動くのとはまた違うな! ぶわって感じだな! たまにはこういうものも面白いと思うぞ!」


 私、兄、ドレーク卿、エイヴァ。口々に感想を思うさまに述べていくのをエルシオは熱心に聞いて、時折何かを手元のメモ帳に書き付けていた。今後の参考にするつもりなのだろう。熱心なことだ。


「ありがとうございます。なんというか、研究所には専門家ばかりなので……『一般的な意見』としてとても参考になります」


 やや苦笑気味に礼を述べるエルシオに、私も魔道研究所の面々を思い出す。……うん。まあ、そうだろうなと思う……。


 あの常軌を逸した、教師とは名ばかりの欲望に忠実な老爺・ノーウィム・コラード師には負けるのだろうが、研究者というのは良くも悪くも妥協がないというか、熱心が過ぎて少々世間一般とはズレるところが多々ある。ランスリー家の中にあっても、比較的常識人であるエルシオは常に被害を被っている立場なのだろう。


 まあシャロン曰く、彼は「割といい性格」をしているし、異様に高い順応性を持ち合わせているので特に心配はしていないけれど。何せ齢十にしてシャロンの鬼畜の所業も糧にして成長できる少年なのだ。心配するだけ無駄だろう。


 そしてその順応性の高さはここでも存分に発揮されていた。


「では、転移魔道具の性能を実感していただいたところで、ほかの魔道具も、どうぞ試してみてくださいね。判らないところやおかしなことがあれば僕に言ってください」


 そう、エルシオはこの場にアーノルド殿がいないという不測の事態などなかったかのように言ってのけて私たちを外へと促すのだ。ごく自然な物言いにこれまたごくごく自然に私たちの足も動き出してしまうというこの強引さを感じさせないのに強制力のあるやり口は実にシャロンの影響著しいなと感じざるを得なかった。


 ――私たちが転移してきたここは、旧タロラード公爵邸跡地に建てられた簡易的な施設だ。不毛の地と化したとはいえ暫定王領に指定されている土地であるため、一応ある程度の人員は駐在している。まあ紆余曲折を経てこの土地はエイヴァのストレス発散所に指定されているため、陛下と示し合わせた結果、事情を心得たランスリー家の手のものが常駐しているのだけれど。よって、彼らはランスリー家の使用人にふさわしい有能さで、エルシオの発言とともに魔道具をさっさと運び、こちらの装備を確認し、完璧な礼で私たちを送り出した。無駄のない動きだった。


 なお、私と王太子たる兄が軽々と王城から移動したうえ、さして護衛もなく外に出ることも出来るのは、そこがここ・旧タロラード公爵領だからだ。……ここは、現状エイヴァのストレス発散地だ。ゆえにシャロンによるエイヴァのための強固すぎる結界が張ってある。そもそも不毛の地で見渡しがよすぎるというのもあるが、それを乗り越えて不審者ないし犯罪者が危害を加えようとたくらみ、万が一紛れ込もうとしても、この結界の前には無理だ。その不審者は、うん。かわいそうなことになる。それだけだ。


 ちなみにドレーク卿には単に諸事情により結界が張ってある安全地帯であるとしか伝えていないが、それで大体納得したあたり、彼も察しが悪くはないのだろう。それがシャロンの仕業とまでは思わずとも、不毛の地となった理由すらも伏せられている場所だ。いろいろと考えつくことはあるのだろう。


 ――と、まあそんな経緯を経た現在であるわけだが。


「殿下あああああああ! ジルファイス殿下! そんな現実逃避はやめてください! 僕だけではちょっと無理です。そろそろ無理です! ラルファイス殿下はドレーク卿にかかりきりなので! あああああああエイヴァ君いい加減にしなきゃめっ! だよ!」

「ルーファス! それが気に入ったのはわかった! わかったから落ち着かないか! エイヴァは丈夫だが、それはダメだ!」


 轟音と爆散する何かの合間に、今度は絶叫が響いた。エルシオと、兄・ラルファイスの必死の声だった。どうしてこうなったのだろうな、と私は思う。そう、魔道具を試し始めたまではよかった。エルシオの解説を受けながら一つ一つ試し、感想を伝えていた。だが……エイヴァが迎撃型結界魔道具、ドレーク卿が追跡型火魔術攻撃魔道具を手にしたあたりから何か……そう、もともと戦闘脳な二人のタガが緩んできて……。


「ははははははははは! エルシオ! 我、これ気に入ったぞ! ルーファスとやらもなかなかやりおるな! ふははははははは!」

「エイヴァ殿、これほどの使い手がシャーロット様以外にいらっしゃったとは……若者の可能性は計り知れませんね……! ははっ、負けませんよ! 殿下も、ご心配には及びません。必ずやこの勝負、勝利をあなた様に捧げましょう!」

「いらないよ! 私はその勝利捧げてほしいとは思っていないから一回落ち着いて止まるんだ、ルーファス!」

「エイヴァ君! こっちに戻ってきて! ドレーク卿と一騎打ちしないで! もうっ! 使用上の注意は守ってって言ってるでしょ二人とも!」


 あらゆる魔道具を使いこなし、二人の一騎打ちに発展するのに時間はかからなかった。無駄に身体能力が高い二人が実に楽しそうにやりあっているせいで、力づくでの介入は少々難しいほどの激戦である。いや、それでもドレーク卿だけなら、兄が本気で命じれば止まるのだろうが……エイヴァが楽しそうなせいでまとめて止めないとドレーク卿だけ命の危機に陥りそうだ。だからと言って下手に割って入れば木乃伊取りが木乃伊になる未来しか見えない。よって声を張り上げていったん落ち着かせようとしているのだが、中途半端な制止は激励にしか聞こえないようだ。


 私たちは実に遠い目になり、最終的に、私とエルシオでエイヴァを抑え込み、兄がドレーク卿を制止して、二人まとめて地べたに正座で説教をすることになった。


 ……ドレーク卿は、基本的に普通に有能な護衛なのに、どういうわけか常識的な時とそうでないときの落差が激しいな、と私たちが理解した出来事だった。










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