7/59 言葉なくとも、相語らう(ジルファイス視点)
何でこうなったのだろうか。
私は思い馳せながら、遠くを見た。そしてその視線の先ではすがすがしい秋空に黒々とした煙が流れ、ついでに色々爆散している……。そしてまたしても表現しきれない轟音が轟いて地面が揺れた。轟音の間にもれ聞こえるのは一人の男の笑い声だ。
「あっははははははははははは! まだまだだぞ! フハハハハハハハハハ!」
もちろん、声の主は白い人外である。何がそんなに楽しいのだろう。彼の感性は常々ずれているので私にはまったく理解ができない。
――あの後。王城にてエルシオが口にした『相談』とは、主に二つあった。ひとつはあの場で見せてもらった『個人間転移魔道具』の『転移距離』を国内のあらゆる場所で試す許可の申請。基本的に、国内の随所にランスリー公爵関連・アザレア商会関連の施設は点在しているためそこを利用して今後の実証を行うつもりのようだが、手持ちの施設とはいえ仮にも他領を行き来することになる。ゆえに初めから国家公認であるという証明書が入用ということだ。なくても何とかするのだろうが、あった方がいい、ということだろう。それは私も兄もすぐに理解したし、そもそも魔道研究所は国も注目している上に今回の魔道具に関しては私の発言が元となっているし有用性も高い。よってほぼ問題なく許可をした。多少手続きに時間はかかるが、そこは仕方がないだろう。
それはいい。そこまではいっそどうでもいいくらい滞りなかった。だがしかしそれでは終わらなかったから現在私の目の前で某白い人外がその人外たるゆえんを存分に発揮しているのだ。
問題は、エルシオの相談、二つ目……
「皆さんに、これらの新しい魔道具を、試してみていただきたいんです」
話が一段落したため少し遅めの昼食に舌鼓を打った後。そろそろエイヴァが本格的に暴走するかもしれないと気を引き締め直したころ合いに、エルシオがそれはもう菩薩のように悟り切った笑顔で、二つ目の相談事を口にしたのだ。
「え? 『これら』、ですか?」
私はもちろん聞き返した。エルシオの言葉のニュアンスは明らかに『個人間転移魔道具』のことだけではなかったからだ。そうすれば、エルシオは菩薩のような微笑みのままでうなずくではないか。
「はい、『これら』、です。アリィ、お願い」
「はい。こちらに」
極限まで存在感を消して背景に同化していた専属侍従がまたしても、エルシオの呼び声ひとつですべてを理解して颯爽と動いた。使用人の鑑のような働きぶりだけれども多分あれは常軌を逸しているのだろう。シャロンもそうだが、主が使用人の名を呼ぶただそれだけの挙動から彼らは何を読み取っているのだろう。最近私の周囲の騎士や従者や部下がランスリー邸の彼らを尊敬してやまないのだけれどもあそこまで行きついてしまったら多分何か大切なものを失うのではないかと私は危惧しているので、やめてほしい。なお、さらに言うならば『主を愛で隊』という謎の会合を開くのも、やめてほしい。その会合の結果を何もおかしいことなどないかのように時折私に伝えてくるのもやめてほしい。『私は愛されているんだな』を合言葉に受け流しきっているけれどそろそろ限界が来そうだ。私はその謎の会合の存在を知らなかったことにしていたいのだけど。
ともかく。
「魔力補充式小型魔道具を各種揃えました。結界発動や単攻撃魔術が仕込まれているもの、隠蔽系や索敵系、記録系もあります。生活魔道具も開発中ですが、それのお披露目は次回ですね」
エルシオが次々と紹介をしていく。魔道具はそれこそ腕輪、ネックレス、指輪などのアクセサリーからペン型、手鏡型、時計型、変わったもので人形に仕込んだものや靴、ストールなどの服飾系まであった。
「……より取り見取り、だね……?」
兄が目を白黒させながらそれらを目で追う。告げられる魔道具の機能の数々に、兄だけでなくドレーク卿、そしてなんとエイヴァまでもが興味津々になった。そんな二人に、アーノルド殿が次々と使用方法なども含め説明をしている。
しかし、私はそっとエルシオに目配せをした。察したエルシオがさりげなく私に近づき、二人でやや、兄らから距離をとる。
「よいのですか。あのようなものを持ち込んで。エイヴァが目を輝かせていますよ。不穏です」
「……事前に、旧タロラード公爵領……現荒野を使用する許可を陛下にいただいています。シャロンが。あちらにすでに『転移魔道具』を持ったランスリー家の者が待機していますので、試用も兼ねて移動することになっています」
「……シャロンの差し金ですか。いえ、エイヴァの暴走を止めるためには興味を引く事柄は必要だとは思っていましたが」
「いつまでもお菓子だけでは止められませんもんね……。シャロンもわかってたみたいです。買い物するっていう案もあったんですけどね……」
苦笑し、エルシオが語ったことを要約すると。
『そのメンツで街に出るの? 無謀の極みでしょう? 世間知らずが二人に天然が一人に人外が一人。エルとアーノルド殿が可哀そうじゃない。全員平等に苦労すべきよ、エイヴァのお守りは』である。エルシオはずいぶんと歯に衣着せていたけれども私の脳内ではシャロンの声で再生された。たぶん間違っていない。
そうして菩薩のほほえみを会得した私は、同志とともにエイヴァのお守りという任務を遂行すべく、旧タロラード公爵領・現荒野にやってきたのである。ちなみに、それぞれが転移魔道具に魔力を『登録』しあい、移動するという段になったころに実にさりげなくエルシオの専属侍従・アリィがアーノルド殿をどこぞへ拉致し、そしてアリィだけが帰ってくるという事件が起こった。だがしかし驚嘆はさしてなかった。何故なら。
「……何があったの?」
「シャロンお嬢様の意のままでございます」
というエルシオとアリィ、主従二人の短いやり取りで私たちはすべてを悟ったからだ。そしてアーノルド殿に合掌し、何事もなかったかのように荒野に転移をしたのである。




