8.影武者?
ティアナに会ってから私室までの道は決して長いものではなかったが、誰かに目撃されていないか索敵に全神経を傾けていたウィルに把握する余裕は無かった。
「……着きましたよ。確かあちらがウィル様のお部屋だったはずです」
並んだ扉の一つを指さすティアナ。
ようやく手が離れ、ウィルも人心地つく。
(……あれ?)
「なぜティアナ様が私の部屋などご存知なのでしょうか?」
「貴方の事はしばしば人伝に聞く機会がありまして。一度お邪魔したいと考えていたんですよ」
(それは……大丈夫、なのかな?)
やはり脳裏にちらつくのは王の影。
一度もそんな姿を見たことは無いのだが、何故か満面の笑みで剣を振りかぶっている。
「時間も時間ですから、今日はこれで失礼しますね」
「はい、重ね重ねありがとうございました。……あ、最後に一つだけ宜しいでしょうか?」
「なんでしょう?」
振り返るティアナを前に、ウィルは魔法も併用して周囲の気配を探る。
部屋の中にいた一人の近衛騎士がそれに気づいたのが分かったが、人の気配はそれくらいのものだった。
「影武者に私の名で宜しく伝えて頂きた――」
ふとそこで天啓のように思い至る。
つまり。
――自分のやっていることは、かなり不敬なんじゃないか?
「た、大変恐縮でございますが、一つ申し上げたい儀がありまして!」
決死のテイクツーを、ティアナは笑って遮った。
「まったく、相変わらずなんだから。目の前にいるのに気付かないの?」
「――、え?」
「じゃあね、また今度」
困惑に固まるウィルにはそれ以上取り合わず、彼女は身を翻し去って行った。
(……ファラ?)
最後の態度を見ると、そういうことなのだろう。
気付けなかったどころか、今なおその事実に納得しきれない自分にショックを受けてウィルは呆然と立ち尽くしていた。




