第九章 世界最強の女、そして……聞く気がなかった作戦
第九話、聞く気がなかった作戦。
サイの完璧な作戦と、ハザエの完璧じゃない集中力。
リハーサル用の鍋の運命やいかに。
作者X : @Sora_no_TENKAI
代表作『Tenkai』は完結まで毎日投稿中!
本作は毎週水曜・土曜22時更新です。
サイの作戦は石から始まった。
平らな岩の真ん中に、まるで大陸に侵攻する将軍みたいな厳かな顔でそれを置いて、宣言した。
「この石が溶岩の巨人よ」
「石に見えるけど」
あたしは最高の批評家みたいな顔で言った。
「高さ四十メートル、マグマの皮膚と地質学的に機嫌の悪い怪物を象徴したものよ」
「四十?」
「ヴァレンフォートの伝説ではね。あたしは会計的にも精神的にも安全のために五十って言っておくわ」
丸太に座って、モチは膝の上であたしの靴紐を食べようとしてて、顎に手を当てた。朝早かった。朝飯は硬いパンと、もっと硬いチーズで、タラは『トレイルパン』って呼んで、ジロは『鈍器』って呼んでたやつだった。山が呼吸うるさすぎてよく眠れなかった。そしてサイが喋る。サイが作戦の話をする時は、敬意を表して山まで黙るんだ。
「第一段階、誘引」
彼女は二本の指で小石を動かしながら始めた。
「ジロがクイクイで穴の上を飛んで、北側のクレーターから巨人が出てくるまで煽るの。叫んで、罵って、何でもいいから」
「俺? 五十メートルの化け物を煽るの?」
ジロがもうピップの小麦粉みたいに真っ青になって抗議した。
「あなた普段ハザエを煽って生きてるじゃない。経験あるわ」
「ハザエは五十メートルないだろ!」
「でも言い回し間違えたら殺す気は同じくらいよ」
サイはあたしを見もせずに付け足した。
あたしは頷いた。事実だった。
「第二段階、拘束」
サイはもう一つの小さい小石を動かした。
「タラが進んで、盾と回収した鎖で巨人の足を絡める。十分太いわ。レンが上から赤い布で弱点をマークする」
「弱点はどこだ?」
レンが実務的に聞いた。
「首の付け根、マグマのプレートの間よ。大きさは手のひら一個分くらい。ざわめきでプレートが開いた時、三秒だけ露出するの」
「手のひら一個分」
レンが何の感情もなく繰り返した。まるで『山一個分』って言うみたいに。
「第三段階、刻印。ハザエが巨人の上に跳んで、カダヴァルをマークした場所に突き刺して、血を取る。一突きだけ。綺麗に、正確に。見世物なし。叫び声なし。州の半分を破壊することなし」
「正確に」
聞いてるって見せるために繰り返した。聞いてなかったけど。
「第四段階、撤退。全員が東のトンネルから下がる。ハザエが……」
もう聞くのをやめてた。
すごく遠くから、サイの声が角度がどうとか、鎖がどうとか、スケジュールとか、熱の計算とか、岩の膨張とか、今思いついた『四十パーセントの安全マージン』とか喋ってるのが聞こえてた。言葉は糞馬車の周りのハエみたいにあたしの横を通り過ぎていった。空を見た。蜂蜜パンの形の雲を見た。蜂蜜酒のことを考えた。本物の蜂蜜パンのことを考えた。作戦の中にいるより酒場にいる方がどれだけ良いかを考えた。
顎が手から滑り落ちた。
「ハザエ!!」
弾けるような声で目が覚めた。モチが跳ねた。
「聞いてる! めっちゃ聞いてる! えーっと……段階!」
「第二段階は何?」
サイが腕を組んだ。
「拘束! タラが足止めるやつ!」
「第三段階は?」
「あたしが跳んで切る! 正確に!」
サイはゆっくり目を閉じた。誰かを火山に投げ込まないように十まで数える人みたいに。
「第三段階は手のひらサイズの一点への正確な一突きよ。手のひらよ、ハザエ。街じゃないわ」
「あたし跳んで切る」
揺るぎない確信を持って繰り返した。
「正確に」
「あなた作戦壊すわよ」
「あたしは巨人を壊すの。作戦は二の次。後で直せばいい細かいことよ」
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サイに指示に従えるってことを証明するために、そして彼女が言うことを聞かなければ石に縛り付けるって脅したから、リハーサルをすることになった。
リハーサルは予算的・演劇的な適応を色々要求した。石はロープで吊るされた鉄鍋に置き換えられた。酔っ払い怪物の頭みたいにぶらぶら揺れてた。巨人役で、空き地を歩く役には、ジロが強制的に徴用された。
「俺巨人やりたくない!」
彼はもう汗だくで抗議した。
「怖がった時に速く走れるのあなただけなのよ」
「怖いから速く走るんだよ!」
「そうよ。だからあたしが怖い時みたいに走って。その才能を使いなさい」
「でも本当にあなたが怖いんだよ!」
「完璧。ヴァレンフォート式スタニスラフスキー・メソッドね」
ジロは『弱点』を示すために炭でバツ印を付けた鍋を頭に被って、腕をぶらぶらさせて行ったり来たり歩き始めた。巨人の歩き方の真似のつもりが、怯えた鶏みたいだった。タラは隅で、壁みたいに真面目な顔で盾を掲げた。レンは高い石の上に赤い布を持って陣取った。サイはまだ破壊されてない樽の上に立って、即席の小旗を振り上げて叫んだ。
「第一段階! 誘引! 行け、ジロ、煽れ!」
素人芝居に参加するのが大嫌いで、このリハーサルとは何の関係もないクイクイが、ジロの肩に止まって、恨みがましい鳥の優しさで彼の耳を突いた。
「痛っ! あいつはキャストに入ってない! キャストから外して!」
「第二段階! 拘束!」
タラが二歩進んで、地面が揺れる音を立てて盾を地面に固定して、腕を組んでジロの前で立ちはだかった。乗り越え不可能な人間の壁。
五十メートル怪物の役をやってたジロは止まって、彼女を見て、その影を見て、盾を見て、吃り始めた。
「ぼ、僕はすごく危険な怪物だぞ! 本当に危険なんだ! 全部……全部壊しちゃうぞ!」
タラは黙って彼を見つめた。二メートル十センチの沈黙で。
「……降参する」
彼は鍋を頭から取って言った。
「第三段階! 刻印!」
サイが樽から落ちそうになりながら叫んだ。
深呼吸した。世界が小さくなった。鍋だけ。バツだけ。
『集中』
カダヴァルが言った。初めて皮肉なしで。
『一撃よ。手のひら一個分の幅。誰かに何かを証明する必要はないの。触れるだけでいいの』
「わかってる」
『竜じゃないんだから。何も爆発させる必要ないの。演説する必要もないの』
「わかってるっての、クソ! 集中してる!」
跳んだ。
タラの盾の上を、ジロの頭の上を、レンが赤い布を持って座ってる石の上を飛んで、カダヴァルを鍋に向かって振り下ろした。パンについて考えてない時に体が知ってる精一杯の正確さで。
一撃は鍋に当たった。
その後ろの地面にも当たった。サイのテントにも。当たった。サイが立ってた樽にも。当たった。三日かけて集めた薪の山の半分にも。
ドンッ。乾いた、鈍い音。
埃の波が野営地全体を覆った。それが収まった時、ジロは無傷で立ってて、手を頭に当てて、完全に左右対称に真っ二つに割れた鍋が壊れた王冠みたいに耳の上でチリンチリン回ってた。
「俺……生きてる?」
ぼーっとして呟いた。
「生きてる」
上からレンが答えた。
「ありがとう、レン」
「俺に礼言うな。クソみたいな幸運に礼言え」
サイは地面に座ってた。小旗が横に倒れて、髪はぐちゃぐちゃで、膝の上には木切れが乗ってて、自分の老後の計画が燃えるのを見た人の顔をしてた。
彼女はテントの残骸を見た。それからあたしを見た。それからまた残骸を見た。
「銀貨三枚」
「テントで?」
「テントと樽と薪と、あたしの職業的尊厳でよ」
「尊厳は別料金なの?」
「尊厳に値段は付けられないわ、ハザエ。でも損害には値段があるの。そしてあなたは働いて払うのよ」
彼女は羊皮紙に、破れそうなほど強い筆圧で何かを書き付けた。
『鍋だけ狙うはずだったんだけど』
カダヴァルが、がっかりした教師みたいな口調で言った。
『作戦全部じゃなくて。野営地全部じゃなくて。鍋だけよ』
「集中しろって言ったから集中しすぎたんでしょ!」
『励ましてたの。あなたが励ましすぎたのよ』
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もう一回やってみた。
そしてもう一回。
三回目の挑戦では、鍋はカボチャに置き換えられた。サイがこれ以上鉄を無駄にするのを拒否したからと、鉄は高いからだ。四回目ではタラがわざわざ持ってきた木のバケツに。五回目ではモチが自分用に即確保した陶器の器に、美味しそうに見えたからって半分食われる前に。
六回目で、わかり始めた。
力の問題じゃなかった。山を真っ二つに切るくらいの力は十分すぎるほどあった。抑えることの問題だった。堪えることだった。子供用のすごく小さいコップで蜂蜜酒を飲むみたいな。一口一口を計算しなきゃいけなくて、あたしは瓶ごとガブ飲みして、もう一杯頼むのに慣れてた。
カダヴァルの柄を、何かを証明したい気持ちを少し減らして握りしめた。肩の力を抜いた。レンが足跡を追う時にやるみたいに深呼吸した。息を吐いた。
跳躍はもっと短く、もっと軽く、ほとんど無音になった。剣は誰も起こさないように、許可を求めるみたいにゆっくり降りてきた。カボチャの一個手前で止まった。一個手前。
全員黙った。クイクイまで突くのをやめた。
刃の先で皮に触れた。穴を開けた。本物の小さい穴を。丸くて、銅貨一枚分くらいの。カボチャを割らずに。何も爆発させずに。
「できた」
信じられずに囁いた。
「できたわね」
サイが、喋る魚を見てレシートを要求された人みたいな口調で繰り返した。
タラが背中を叩いてきて、危うく地面に倒れるところだったし、誇りの肋骨二本が折れるところだった。ジロはあたしが火を発明したみたいに拍手し始めた。レンはゆっくり一回だけ頷いた。承認の。演説より価値のあるジェスチャー。
「あたしは天才だ!」
剣を掲げて叫んだ。
「カボチャに穴開けただけよ」
サイが訂正した。でも口の端に小さく笑みを浮かべて。
「外科的な正確さで!」
「五回失敗して、銀貨三枚の損害を出しての正確さね。でも正確には正確だわ」
「細かいこと! どうでもいい細かいこと!」
肩の上のモチが飛び降りて、カボチャの穴を食べ、その穴の縁を食べ、その後三口でカボチャ丸ごとを食べて、満足げにゲップした。
進歩は進歩だ。食べられても。
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日暮れ時、一人で焚き火から離れた石に座って、カダヴァルを膝に置いた。火山は暗い空に消えるまで螺旋状に上がっていく灰色の煙を吐き出してた。どんどん太くなってた。
「何か思い出した? 広間のこと」
『思い出したわよ』
体勢を正した。心臓が速くなった。
「何を?」
『あなたがいびきかいてたこと』
「あたしはいびきかかないわよ、クソ」
『昨日かいてたわよ。三つの違うトーンで。最後のはほとんどアイゼンクローネのオペラのアリアだったわ。感動的で心配だったわ』
「それは思い出しじゃなくて今の観察でしょ!」
『眠れなかった目撃者、聴覚的目撃者の観察よ、あなたのせいで』
「前よ。広間のこと聞いてるの。囚われてたって言った時。助けを求めたって」
剣は長い間静かになった。筋の輝きが少し弱まった。目を閉じるみたいに。
『宿代の未払いだったのかもね』
「何の?」
『宿泊費よ。火山に住むのって高そうじゃない』
「宿代で捕まるわけないでしょ。あなたは何も払わないじゃない、剣なんだから!」
『じゃあ騒音よ。冗談言いすぎたのかも。冗談の通じない人もいるのよ。火山とか、冗談がすごく下手なのよ』
あたしは笑った。堪えられなかった。笑い声は大きくて、弾けて、騒々しく出て、焚き火の方から何人かの頭が驚いてこっちを向いた。何日もこんな風に、重さなしで笑ってなかった。
「何か知ってて隠してるでしょ。ごまかしてる」
『色々知ってるわよ。全部気まずいの。巨人が起きたら、直接あいつに聞けるわ。あいつはあたしより年上だし、もっと機嫌悪いし』
「あたし真っ二つに切るけど」
『じゃあ切る前に聞きなさい。礼儀としてね。で、山じゃなくて手のひらを狙いなさい』
しばらく山を見てた。煙は今やもっと速く上がってた。カダヴァルは怖がってるようには見えなかった。むしろ少し面白がってるみたいだった。あたしがまだ理解してない冗談を知ってて、話すのに良い時間を待ってるみたいに。
剣の謎が、怖いんじゃなくて、笑いたいと思わせたのはもしかしたら初めてだった。
焚き火に戻ると、サイは羊皮紙を広げて、誰かを破産宣告しようとしてる裁判官みたいな顔をしてた。
「今週の出費」
炭で羊皮紙を叩きながら発表した。
「もう? また?」
「ロープ、金貨五枚。テント、樽、薪、銀貨三枚。予備ロープ、金貨二枚。竜が噛んで離さなかったことによるロープの損傷、金貨一枚。モチが食べたパン、銅貨四十七枚」
「四十七? 四十七個も食べたの?」
「よく食べるのよ。速く食べるのよ。人の物を食べるのよ」
頭の上に王冠みたいに陣取ってたモチが、大きな嗚咽と青い火花を出した。
火花が落ちて、ふわふわ漂って、ちょうど羊皮紙の上に乗った。
羊皮紙が火を噴いた。青く。
サイは数秒間、叫び声より怖いくらいの冷静さで炎を見つめた。それからゆっくり竜に目を上げた。
「これ、ハザエ」
殺すことを決めてから会計する人の冷静さで言った。
「計上するわ。利子付きで。火山補正付きで」
あたしは笑いを隠すために口を手で覆った。無理だった。笑いが漏れて、それと一緒に一週間分の緊張も全部漏れた。
久しぶりに、準備できてる気がした。破壊する準備じゃなくて。当てる準備が。
たとえそれがカボチャ一個だけでも。
第九章・終
ここまで読んでいただきありがとうございます!
カボチャに穴を開けるのに六回かかりました。
巨人の首は……大丈夫でしょうか。頑張れ、ハザエ。
作者X : @Sora_no_TENKAI
代表作『Tenkai』は完結まで毎日投稿中です。
本作は毎週水曜・土曜22時更新です。
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次回、水曜22時に続きます!




