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第八章 世界最強の女、そして……知ってる穴

第八話、知ってる穴。


十二歳で落ちた場所に、もう一度戻ってくる。

カダヴァルが、初めて黙る。


作者X : @Sora_no_TENKAI

代表作『Tenkai』は完結まで毎日投稿中!

本作は毎週水曜・土曜22時更新です。


ロープは金貨五枚した。


知ってる。サイが朝からずっと念仏みたいに繰り返してたからだ。


「金貨五枚よ、ハザエ。五枚。サラマンダーの絹で編んだロープ。リサンダー製。アクラの熱でも溶けない、伸びない、文句言わない。この金額で、ヴァレンフォートの家族が一年、ちゃんと食えるのよ」


「この金額で蜂蜜酒半年分買えて、つまみの豆も付くわ」


「だから、責任ある大人の監督なしで触らないこと。あなたじゃないわよ、責任ある大人ってのは」


サイはロープを防水の革袋にしまって、あたしを自分の宝物を見る竜みたいに睨んだ。あるいは船よりロープの方が高いと思う海賊みたいに。


七日目の朝、野営地全員が日の出前に起きた。空はまだ紫だった。作戦はシンプルで、一晩中自分に呪文みたいに繰り返してた。穴に降りて、巨人の縄張りを確認して、帰る。戦わない。化け物を起こさない。火山を刺激しない。何も爆発させない。


自信あった。


『自分に嘘ついてるわよ』


カダヴァルが素っ気なく言った。


「楽観的になってるのよ」


『何か壊す前に人間が言うやつね』


降りるのは四人。レンが先頭、足跡追い。タラが真ん中、盾と荷物の大半を運んで、必要ならあたしも。あたしが最後尾、肩にモチを乗せて、なるべく汗をかかないように頑張って。ジロは上でクイクイと空の見張り。戦略的判断ってことにしてるけど、組織的臆病の間違いだ。サイは彼と一緒に上に残って、ロープと予算を管理する。


「もしロープが切れたら」


彼女は、リサンダーの船乗りでもやらないような結び方でカラビナを結びながら言った。


「あなたの給料から引くわ」


「落ちたら?」


「遺産から引くわ」


「遺産なんてないよ」


「じゃあモチから引くわ。あの子の方が今、市場価値高いんだから」


モチがあたしを見た。すごく侮辱された顔で。それからすごく dignified に、サイが落とした銅貨一枚を拾って、ビスケットみたいに噛んで、飲み込んで、小さな青い火花のゲップをした。


サイは消えた硬貨と、竜と、あたしを見た。


「パン二十個分」


即座に計算した。


「あの子、今パン二十個分食べたわ。銅貨で」


「赤ちゃんだよ! 赤ちゃんは硬貨食べるの!」


「あたしを破産させる前に巨人に殺される赤ちゃんだわ」


---


降りるのに一時間以上かかって、三時間くらいに感じた。


穴は覚えてたより深くて、壁が喉みたいに閉まる場所ではもっと狭かった。岩は手袋越しでも熱かった。サイがあんなに褒めてたサラマンダーのロープは鈍い赤に光ってた。熱い。でも溶けない。伸びない。金貨五枚の価値はあった。クソ。


レンは知ってる場所を歩くみたいに軽く、ほとんど音もなく降りてた。タラは下で、片手を壁に、もう片方を盾に当てて、一つ一つ足場を確かめながらゆっくり進んでた。熱は息苦しくて、空気は金属の味がした。呼吸するたびに錆と硫黄を胸の中に引きずり込むみたいに。


あたしは黙って降りた。あたしにとってはそれだけでも伝説的な努力だ。


肩の上のモチは大興奮だった。壁に張り付いた燻り石を見つけるたびに首を伸ばして噛もうとして、あたしが尻尾を引っ張って戻さなきゃいけなかった。市場で子供を引っ張るみたいに。


三十メートルくらいのところで、レンが狭い出っ張りで止まって、松明を灯した。黄色い光が、あたしが予想してなかったもの、胃の底を沈ませるものを照らした。


壁がルーンで覆われてた。


彫られたのでも、描かれたのでもない。岩そのものから生えてきたみたいに、細くて赤みがかった線が、薄い皮膚の下の血管みたいに微かに脈打ってた。穴全体を巡って、上がったり下がったり、交差したり、上の闇と下の闇に消えていってた。


「前からあったんだ」


レンが、線から一センチのところで指を止めて、触れずに呟いた。


「あなたが十二歳で入った時も。あなたが見たものは……壁に刻まれてた。ただ消えてたんだ」


「何も見なかったよ。暗かったし、落ちてたし」


「消えてたんだ。今、目覚めてる。火山も一緒に目覚めてるんだ」


カダヴァルは黙ったままだった。でも背中での脈動が、ルーンのリズムと合ってた。トクン、トクン。トクン、トクン。同期してた。


降り続けた。ロープの終わりで、穴は緩やかに曲がって下りていく傾斜したトンネルに開いてた。すごく大きな何かが快適さを好んで掘ったみたいな。レンが軽く前に跳んだ。タラとあたしが続いた。そこの静寂は深すぎて、一人一人の呼吸も、心臓の鼓動も、革の軋む音も聞こえた。


ブーツが石の上で反響して、一歩ごとに二回返ってきた。誰かが後ろを付いてきてるみたいに。あたしの緊張には全く役に立たなかった。


あたしは最後尾だった。蜂蜜酒のことを考えないようにした。蜂蜜パンのことを考えないようにした。タラが炒めた夕食の玉ねぎのことを考えないようにした。美味しかったから、復讐心に燃えてるやつだ。


すごく、すごく頑張って考えないようにした。意志の強さでも世界最強の女だ。


ブウウウウウッ!!!


あたしのでかいおならの音がトンネル全体に響いた。そして反響した。そしてまた反響した。まるで故障した酔っ払いの音痴なトランペットのオーケストラが火山の内臓に放たれたみたいに、一つ一つの反響が前より下品で、長くて、詳細だった。


足を止めた。足の先から頭まで真っ赤になって、死んで壁のルーンになりたいと思った。


タラが止まった。背中を向けて。肩が震えてた。はっきりと。モチが深い哀れみみたいな、ほとんど人間みたいな表情であたしを見た。


レンは三秒間、完全に動かなかった。永遠みたいな三秒間。


「山だ」


振り向かずに、世界一中立な声で言った。


死の沈黙。


「何?」


小声で言った。


「山だよ。こういう音を出すんだ。熱い空気が亀裂から抜ける時に。硫黄ガスの蓄積。活火山ではよくある現象だ。今日だけでも三回見た」


彼の背中を見つめた。彼は何も見せなかった。笑いも、気まずさも、笑いをこらえる努力も。ただイノシシの足跡や風向きを話す時と同じ声で言った嘘だった。盾として差し出された嘘だった。


「ありがとう」


声が詰まって呟いた。


「どういたしまして。山はこの時期、すごくうるさいから」


タラはもう耐えられなくて、すごく大きな、すごく怪しいくしゃみみたいな音を出した。でかい手で顔を覆って、鼻に埃が入ったフリをした。耳が赤かった。


深呼吸して、そこで決めた。レンは間違いなく班で一番良いメンバーだ。上で硬貨を数えてるジロより、損害を数えてるサイより、みんなより良い。


---


トンネルは広間で終わった。


床を見る前から、そこだってわかった。空気が変わった。重くなった。古くなった。何世紀も閉じ込められてた空気みたいに。そこの熱は別の質だった。オーブンの熱じゃない。でかすぎる生き物の、ゆっくり呼吸してる生きた体の熱だった。


レンが松明を高く掲げた。


広間は丸くて、ヴァレンフォートの小さな広場くらいの大きさだった。真ん中、ぼんやり覚えてる頭をぶつけたのと同じ場所に、黒い岩の台座があって、真ん中から割れてた。何かが力ずくで引き剥がされたみたいに。

周りには、死んだ蛇みたいに、巨大な鎖が床に散らばってた。輪っかはあたしの腕くらい太くて、いくつかはまだ岩に繋がってた。切れてた。いくつかは半分溶けてた。中から焼かれたみたいに。


天井と壁を覆うルーンは、ここでは耐え難いほどの強さで輝いてた。あたしの剣と同じリズムで脈打ってた。あたしの心臓と同じリズムで。


台座の前に跪いた。落ちた輪っかに手を伸ばした。


温かかった。でも焼けなかった。悲しい熱だった。


『ここよ』


カダヴァルが言った。声はすごく小さくて、頭の中でもほとんど聞こえないくらいだった。


「ここで寝てたの?」


『ここで囚われてたの』


その後に来た沈黙は大きすぎて、耳の中で自分の血が流れる音が聞こえた。ドクンドクンって。


「誰があんたを閉じ込めたの?」


剣は答えるのに時間がかかった。話した時、声は五年一緒にいて一度も聞いたことない何かで詰まってた。恐怖だった。本物の恐怖だった。古い、皮肉なしの。


『わからない。顔は覚えてない。鎖は覚えてる。あたしの上から話す、あたしじゃない声を覚えてる。そして下で動く、でかくて熱い何かを覚えてる。誰かに迎えに来てくれって頼んだのを覚えてる。聞いてくれって。長い間、頼んでたの』


動かずに、輪っかに手を置いたままだった。


『そしてあなたが落ちてきたの』


輪っかを強く握りしめた。


「じゃああたし、その時あんたの声を聞いたんだ。落ちた時」


『わからない。もしかしたら。もしかしたら、聞こえるくらい近くに落ちたのがあなただけだったのかもしれない』


もう何も言わなかった。言う必要なかった。レンとタラは壁に寄りかかって、松明を低くして、急がずに距離を置いてくれてた。膝の上のモチは燻り石を噛むのをやめて、金色の目を大きく開けて、瞬きもせずに剣を見てた。わかってるみたいに。


長い間そうして、暗闇の中で一人で助けを求めてた友達の隣に膝をついてた。五年経った今でも、刃の先にその恐怖を抱えてる友達の。


立ち上がった時、声は硫黄で喉が擦れてても、しっかりしてた。


「帰るよ」


---


登りは降りより速かった。怒りながら登る方が、怖がりながら降りるより簡単だからだ。レンが先頭で、完全な沈黙で進んだ。タラが今度はあたしの隣で最後尾を固めた。肩が触れるくらい近くで。例の……地質的事故……が反響した場所を通り過ぎる時だけ、モチが小さくて控えめな火花を空気中に出した。連帯の印か、カモフラージュの試みか。「竜のせいだ」って言ってるみたいに。


地上では、空が熱で真っ白で、目が眩むほどだった。ジロはあたし達が穴から出てくるのを見るなり膝から崩れ落ちた。クイクイは生まれてこの方あの男を見たことないし、何の関係もないってフリをしようとしてた。


「遅かったぞ! 心配で死にそうだった! いや退屈で死にそうだった! どっちが早く殺すかわかんないくらい!」


「全員生存」


サイが、頭数を指で数えながら言った。しかめっ面なのに安心してた。


「今日二つ賭けに負けたわ。精神的に赤字よ」


「どんな賭け?」


「あなたのパニックについて一つと、ジロが一人で火山に飛び込むかについて一つ」


レンは真っ黒な煤だらけの手を上着で拭って、上のクレーターを見た。煙の糸は今や柱になってた。


「周期が始まった」


彼は言った。


全員振り向いた。


「予定より一日早く」


落ち着いて続けた。


「巨人はもうざわめきに入った。山はもう寝てないわ」


サイはゆっくり巻物をしまった。彼女を知ってから初めて、本当の影が顔を横切るのを見た。計算の影じゃなくて、恐怖の影だった。


「どのくらい時間あるの?」


「計算が合ってれば」


レンがあたしを見て言った。


「四日で完全に目覚める。もしかしたらもっと早く」


山を見た。山もこっちを見返した。顔に熱を感じた。硫黄の匂いを。ルーンが下で招待みたいに脈打ってるのを。


「じゃあ四日ある」


言った。


サイが近づいてきて、ジョッキを渡してくれた。蜂蜜と良いものの匂いがした。水とは違うやつだ。


「何これ?」


「蜂蜜酒よ。一杯。一杯だけ。冷えてる。レンに氷を作ってもらったの」


「ダメって言ってたじゃん。表作ったじゃん」


「降りる前はダメって言ったの。今はいいわ。あなた達、飲む価値があるわ」


彼女を見た。彼女は目を逸らした。優しくしてるのを認めたくない時いつもそうするみたいに。


「それって愛情表現なの、サイ? 本物の愛情?」


「戦略的出費よ」


彼女は速攻で言い返した。


「シラフすぎると考えすぎるでしょ。考えすぎると怖がるわ。怖がると高いもの壊すのよ。山みたいな」


「あたしはいつも何か壊すよ」


「だから正当な出費なの。早く飲みなさい。気が変わって請求する前に」


飲んだ。


蜂蜜酒が温かくて甘くて完璧に喉を通った。人生で一番美味しい一杯だった。冷えてたからじゃない。何日かぶりに、全部一人で背負ってる気がしなかったからだ。肩に竜がいて、怖がってる剣がいて、恥を支えてくれる巨人がいて、あたしの代わりに嘘をついてくれる狩人がいて、気にしないフリをしながら蜂蜜酒を買ってくれる海賊がいて。


そして下では、でかい何かが伸びを始めていた。


第八章・終

ここまで読んでいただきありがとうございます!


山がおならで返事するタイプの山だとは、ハザエも思わなかったでしょうね。


作者X : @Sora_no_TENKAI

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次回、水曜22時に続きます!

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