第七章 世界最強の女、そして……あたしを知らない吟遊詩人
第七話、吟遊詩人がやってくる。
彼はハザエを知らない。
これが一番危険かもしれない。
作者X : @Sora_no_TENKAI
代表作『Tenkai』は完結まで毎日投稿中!
本作は毎週水曜・土曜22時更新です。
二日目の朝、サイが岩に表を貼り付けた。
一番上には、一時間かけて丁寧に書いた字で、こう書いてあった。野営地当番表――厳守。以下には、それぞれの名前の横に取り立て屋の字で義務が書いてあった。
タラ、水汲み。
ジロ、空の見張り。
レン、足跡追い。
サイ、その全部を管理し、馬鹿で死なないように保証すること。
そしてあたしの名前の横には、もっと小さくて残酷な字で、こう書いてあった。
ハザエ、何も壊さないこと。
「これ任務じゃないでしょ」
抗議した。
「偏見だよ」
「一番難しい任務よ」
サイは目も上げずに言った。
「そして唯一本当に大事なやつ」
「薪割りできるよ! 斧得意だよ!」
背中のカダヴァルが、はっきり個人的な憤慨で震えた。
『あたしは斧じゃないわ』
「使うって言ってないじゃん」
『使うつもりだったわ。斧って考えた時の声でわかったわ』
「考えただけだよ」
『考えただけでも侮辱よ。あたしは千年の遺物なのよ』
結局、タラが自分の斧を渡してくれた。片手で持ち上げるのもやっとな重さの代物で、乾いた丸太の山を指さして、爆発物を持った子供を監督するモードで腕を組んで離れた。
昼過ぎまで薪を割った。柄を二回折った。二回目、斧が飛んでクイクイに当たりそうになった。クイクイは憎しみを新たにした目であたしを見た。サイは会計的な喜びで損害を書き込んだ。
「ロープ二本と柄一本追加ね。安く済んでるわ」
彼女は呟いた。
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三日目、モチの訓練を始めた。
方法はシンプルで、科学的で、失敗する運命にあった。焼いたら「ダメ」って厳しい声で言う。誰も焼かずに一分耐えたら、ご褒美の燻り石をやる。
最初の十分で、モチはあたしを十一回焼いた。驚異的な統計だ。
次の十分で、ジロを焼いた。同じ場所を二回。
「なんで俺だけ背中向けてる時に焼くんだよ?」
ジロが、焦げた髪の匂いをさせながら文句を言った。
「美的センスと良い趣味があるんじゃないの」
慈悲深く答えた。
モチはあたしの前に座って、金色のデカい目で、尻尾の先に燻り石をバランスよく乗せて供え物みたいにして、馬鹿みたいに dignified に胸を張って座った。待った。もう少し待った。ご褒美の燻り石を差し出した時、彼は前足で触れて、首を傾げて、小さくて制御された精密な火花を一つだけ出して、あたしの小指だけを灯した。
一本の指だ。眉毛じゃない。前髪じゃない。小指だ。
「進歩ね」
少し離れたところで、爆発寸前の化学実験を見るみたいに観察してたサイが呟いた。
「記録しときなさい、ジロ」
「どこに? 巻物に?」
「あたしの記憶に。この班が燃やさない唯一安全な場所よ」
モチを肩に乗せた。彼は喉を鳴らした。変な感覚だった。温かくて同時に軽くて、よだれを垂らす小さな太陽を背負ってるみたいな。
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レンが三日目の終わりに野営地に戻ってきた。ブーツにも髪にも魂にもアクラの埃を付けて、いつもの表情で。あれが心配なのか退屈なのか腹減ってるのか、誰にも解釈できない表情で。
「見つけた」
それだけ言った。
「巨人を?」
跳ね起きて聞いた。
「周期を」
彼はしゃがんで、枝で地面に円を描いて、四つの不均等な部分に分けた。
「山は四拍子で呼吸する。一つは深い眠り。一つはざわめき。一つは熱。一つは沈黙。それぞれ大体一日。時々もっと長い」
「今は?」
「深い眠りの中。あと三日でざわめきに入る」
「弱くなる時は?」
レンはゆっくり首を振った。
「目覚める時だ。寝てる時は完全で、閉じてて、一撃でいくにはデカすぎる。起きる時に晒す。隙間を開ける。刻めるのはその時だ」
サイが図の上に身を乗り出して、もう表計算に変換してた。
「つまり降りる準備に三日あるってことね。ロープ、支点、逃げ道」
「そしてあたしが何もしない三日間があるってこと」
文句を言った。
「あなたには表があるわ」
サイが岩を指さして思い出させた。
「表大嫌いだよ、クソ」
「表はあなたのことが好きよ。あなたのことを考えて作られたんだから」
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四日目の夕暮れ、男が道に現れた。
一人で、背中にリュートを背負って、継ぎ接ぎの帆布のリュックと、もっと良い日々を見てきた孔雀の羽で飾られたつば広の帽子を被ってた。二十歳くらいに見えた。茶色い髪は山風で乱れてた。緑の目は道に疲れてた。そして別の機会ならあたしにジョッキと尊厳を同時に落とさせたであろう気楽な笑顔。
あたしは野営地の真ん中で、タラの容赦ない監視の下で料理をしてた。薪割りの事件の後、台所に降格されたからだ。そしてカダヴァルは手の届くところになかった。剣は焚き火の向こうの石に立てかけられて、古い毛布にくるまれてた。サイが「剣を背負って料理すると旅人が怯えて税金がかかる」って主張したからだ。
男は大きくて芝居がかった動きで帽子を取って、倒れそうになるくらい深いお辞儀をした。
「こんばんは、旅の皆さん! 私はトーマ、放浪の吟遊詩人、物語の狩人で廃墟の愛好家! 歌一曲と引き換えに焚き火を分けてもらえませんか? あとそのめちゃくちゃいい匂いのする豆をちょっとだけ?」
サイがあたしを見た。あたしがサイを見た。彼女の目は「名前を言うな」って言ってた。
タラは腕を組んで、対空防御モードだった。唯一まだ社会的反射が働いてるジロが先に答えた。
「もちろん! 座って! 豆とトラウマがあるよ!」
トーマはあたしの近くに、知り合いじゃない人間としては近すぎる距離に座って、笑って言った。
「焦げた髪の綺麗なお嬢さん、紹介してくれないの?」
一瞬、頭が完全に真っ白になった。濡れた布で拭われたみたいに。
「ハゼ」
口から出た。
「名前はハゼ」
『ハゼ』
カダヴァルが毛布の下から、あたしにしか聞こえない優しい皮肉で繰り返した。
『一文字違い。素晴らしい戦略ね。ほとんど気づかれないわ。偽装の天才ね』
「よろしく、ハゼ」
彼は言って、あたしの手を握った。
気絶しなかった。逃げなかった。先祖や剣や、うっかり滅ぼした王国の数について聞いてこなかった。
彼の手があたしの手を握ってるのを見つめた。温かくて、リュートの弦で指先が硬くなってて、しっかりしてた。
「ハゼ?」
彼が呼んだ。
「はい?」
「いつか手を離してくれるのか、それとも家に持って帰るつもり?」
即座に離した。うなじまで真っ赤になって。肩の上のモチが緊張でくしゃみをして、あたし自身の鼻先を焼いた。最高だ。
夕食の後――彼は宴会みたいに褒めてくれて、それだけで一瞬で好きになった――トーマはリュートを手に取って、ヴァレンフォートとアクラの間で書いた新曲があるって言った。
「ウー・ライの伝説についての歌だよ。狩人ハザエ・イシザキの」
スープで激しくむせて、タラに背中を叩かれて火山に飛ばされそうになった。
「知ってるの?」
サイが、モチにすらバレるくらい偽物の無垢な顔で聞いた。
「直接はね」
トーマは弦を合わせながら言った。
「でも四十の村を通ってきて、どこでも彼女の噂を聞いた。三メートルあるって、溶岩で風呂に入るって、竜を丸呑みするって、寝ないって。山より人間離れしてるって」
「あたし一度も……」
憤慨して言いかけた。
タラが足を踏んだ。強く。明確なメッセージ。黙れ。
トーマはリュートを構えて歌い始めた。声は良くて、澄んでて、力みがなくて、目立ちたいからじゃなくて必要だから歌う人間の声だった。
メロディは波みたいに上がったり下がったりして、歌詞は巨体の女について、火の目を持ち、くしゃみだけで軍隊を全滅させ、通った跡に灰の足跡を残す女についてだった。
二番ではもう八つの王国を滅ぼして三人の王子からの求婚を断ってた。三番では蜂蜜酒の川一本を飲み干して最後の敵の骨を爪楊枝みたいに吐き出してた。
じっと聞いてた。顔がどんどん熱くなって、どんどん赤くなって。
ジロは笑わないように拳を噛んでて、失敗してた。サイは空を見て、人間の馬鹿さに諦めてた。隣のタラは微かに震えてた。地滑りを起こしかねない笑いをこらえて、耳の先が赤くなってた。
「翼の欠片一回食べただけだよ」
歯の間から呟いた。
「事故だったんだよ! 味付けなしだったんだよ!」
トーマが演奏を止めた。
「ごめん? 聞こえなかった」
「何でもない! 何でもない! 続けて、素敵だよ!」
急いでファンみたいな声で言った。
彼は続けた。歌は、雲の上に登って星の間で一人で寝る、誰も必要としない、冷たくて手の届かない女主人公で終わった。最後の和音が空気に残った。綺麗で悲しい。
それからトーマはリュートを下ろして、歌が苦い味を残したみたいに焚き火を見つめた。
「変だと思わない?」
低く言った。
「このバラードも、彼女について書いた他の全部も、誰も彼女が何を望んでるか聞かないんだ。みんな彼女が何をしたか知ってる。何人殺したか、何人救ったか数える。誰も何を望んでるか知らないみたいだ。腹が減ってるのか、寒いのか、いたいのか」
野営地が静かになった。アクラの風さえ、聞くために止まったみたいに。
「もしかしたら、ただ静かな夜が欲しいだけなのかもしれない」
考える前に、 작은声で言ってた。
「一杯の飲み物。喋る相手。誰も彼女を怖がらない。名前を武器みたいに叫ばなくていい夜が」
トーマは長い間あたしを見た。緑の目に恐怖はなかった。好奇心があった。違う種類の、もっと危険なやつだ。
「かもしれないね」
彼は言った。
「でもそれは俺には一生わからない。彼女に会うことなんてないだろうし。城に住んでるんだろう、衛兵に囲まれて。あるいは火山の中とか」
口を開けた。飲み込んだ。閉じた。心臓がうるさくて、彼に聞こえるんじゃないかと思った。
何か言うべきだった。誰なのか言うべきだった。カダヴァルが四歩先で、くたびれた毛布にくるまれてること、大陸で一番恐れられてる女がここに座って、曲がったスプーンで豆のスープをかき混ぜて、頭の上で竜を寝かせてるって。
でもその時、彼はあたしをただの女の子として見てた。ただの、焦げた髪で煙の匂いがするハゼって女の子として。そしてそれがどんな感じだったか、すっかり忘れてた。五分間だけそれでいるのがどれだけ良いか。
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トーマは夜明けに南へ向けて出発した。ドルンヴェルドって村へ。火山には登らない。バラードは化け物の口の中で書くもんじゃないし、後で歌うために生きたいって言った。
別れの時、また手を握った。今度は長く握りすぎなかった。
「ハゼ、もし本物のハザエに会うことがあったら」
彼は曲がった帽子を被りながら言った。
「話を聞きたいバカな吟遊詩人がいるって伝えてくれ。次のバラードを書く前に。次の歌は戦争についてじゃなくていいかもしれないって」
「伝える」
約束した。声が途中で折れた。
「絶対伝える」
彼は笑って、リュートを背負って行ってしまった。低くてシンプルなメロディを弾きながら、熱い石の間で消えていった。道が空になるまで、埃の中に消えるまで、見送った。
『彼はあなたを怖がらなかったわね』
カダヴァルが、低く、皮肉なしで言った。
「誰なのか知らなかったからよ」
『違うわ。知りたいと思ったのよ。それはあなたをポスターで知ってる他の全員とは違うわ』
答えなかった。ただ剣を包んでた毛布を胸に抱きしめた。わかってくれる友達を抱きしめるみたいに。
サイが隣に現れた。すごく怪しくて、すごく見覚えがあって、すごくムカつく音を立てる革の小袋を持って。
「商談成立したわ」
砂漠で砂を売ったみたいな顔で発表した。
「どんな商談?」
「吟遊詩人に、ハザエ・イシザキについての次のバラードの独占権を売ったの。銀貨百枚。前払い。現金で」
一度瞬きした。二度瞬きした。
「あたしの人生売ったの?」
「第一章を売ったの。独占と脚色条項付きで。少し盛ってもいいけど、そんなに馬鹿げた盛り方はなしって条件で」
「サイ! 何なのよそれクソ!」
「古い川の橋の借金の半分は返済されたわ」
小袋を揺らしながら言った。
「感謝されるべきだわ。ハグされるべきだわ。そして火山に投げ込まれないべきだわ」
「第二章は?」
「まだ売り物じゃないわ。来週のあなたの行い次第よ。何も壊さなければ、良い値が付くかもしれないわ」
抗議するために口を開けた。叫ぶために。氷の彫像に変えてやるって脅すために。でも肩の上のモチが、「章」って言葉を聞いて自分のことだと思ったのか、完璧でミリ単位の火花を一つ出して、サイのシャツの最後のボタンを灯した。
ボタンが弾けて落ちた。
「モチ!」
サイが自分の胸を見て叫んだ。
彼は自分自身にすごく、すごく満足してるように見えた。三日間で初めて、本当に燃やされるべき人間を燃やしたのだ。
そしてあたしは、全部にもかかわらず笑った。アクラの麓に来てから初めて、本当に笑った。山に聞こえるのを恐れずに。
第七章・終
ここまで読んでいただきありがとうございます!
名前を隠しただけで、こんなにドキドキするなんて。
ハザエ、恋愛よりこっちの方が向いてるかもしれませんね。
作者X : @Sora_no_TENKAI
代表作『Tenkai』は完結まで毎日投稿中です。
本作は毎週水曜・土曜22時更新です。
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次回、水曜22時に続きます!




