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第三章 世界最強の女、そして……飛ぶ前に評判を焼いた竜


あたしには問題が七つあった。


一つ目は、首に巻きついた四十センチの蛇竜だ。

二つ目は、その蛇竜がさっきあたしの前髪を焼いたこと。

三つ目は、そいつがあたしの髪を五つ星ベッドだと思い込んでること。

四つ目は、竜の赤ん坊が何食うのか全く知らないこと。

五つ目は、カダヴァル・プトロルがこの状況を楽しみすぎてること。

六つ目は、ジロが笑いを止めないこと。

七つ目は、一番ヤバいやつなのに、あたしまだ気づいてないことだ。


「ハザエ」


サイが、ヴァレンフォートへの街道を一人軍隊の将軍みたいに行進しながら言った。


「あなた、自分が数十年続く責任を背負ったって自覚ある?」


「あるよ」


「食事、住処、魔法のケア、訓練が必要で、三つの図鑑によれば無責任アレルギー持ちの生き物よ」


「あるって言ってんだろ、クソ」


「伝承によれば、機嫌が悪くなっただけで街一つ消し飛ばせる生き物よ」


「サイ、わかってるって言ってんだろォ!」


モチが肩から小さな頭を持ち上げて、音量に抗議するみたいにくしゃみをした。

青い炎。コイン大。ジロの耳に直撃。


「アチッ! 耳! クソッ!」


「懐いてるみたいじゃん」


あたしは慈悲深く言った。


「焼き殺そうとしたんだぞ!」


「種族によって愛情表現は違うのよ。あんたのは絶叫」


後ろでは、レンが黙って干し肉の欠片を差し出してた。

羨ましいくらいの忍耐力で。

モチは皇帝みたいな厳かさで、全員を無視した。


『観察は鋭いわね。自分は男に死の脅迫なしで愛情表現されたことないくせに』


『崖から投げ落とすぞ』


『落ちてもあたしは平気よ。あなたは剣なしで会話で解決しなきゃいけなくなる。悲劇ね』


『モチも一緒に投げる』


剣は三秒黙った。三秒間の祖先からのパニックだった。


『やめなさい』


笑った。やっと交渉手段が見つかった。


---


ヴァレンフォートの城壁が見えた時、モチをマントの下に突っ込んだ。

恥ずかしいからじゃない。

あたしはハザエ・イシザキだ。ランク伝説級。災厄竜を三撃で屠った女だ。恥なんてない。


いくつかを除いては。

赤ん坊に前髪を焼かれることとか。

イケメンの前で転ぶこととか。

酒場で起きたこととか、あれは国家機密に指定して、口にしたら緩やかに死ぬ刑にしてある。


タラが門の前で腕を組んで待ってた。

衛兵詰所より場所を取ってる。

あたしを見て、マントを見た。マントがモゾモゾ動いた。

片眉を上げた。それだけで尋問だった。


「なんでもない」


マントがあくびをして、青い煙を吐いた。


「病気のトカゲ」


タラは見続けた。軍隊を解散させる巨大ママの視線だった。


「わかったよ。竜だよ。拾ったの。そんな目で見んなよ、情緒的な理由があるんだよ」


タラは何も言わなかった。当然だ。

身をかがめて、ハンマーの柄みたいなデカい指二本でマントの端を持ち上げて、モチを厳かに、遺物でも見るみたいに観察した。

モチは彼女を見て、選択肢を考えて、鼻先にくしゃみをぶっかけた。


彼女は瞬きすらしなかった。

ゆっくり、指でモチの頭を撫でた。モチは喉をゴロゴロ鳴らした。調子の悪いエンジンみたいな音で。


「もう懐かれたわ」


サイが、脳内で赤字を追加しながら言った。


「どうやって隠す気?」


ジロが、まだ耳を掻きながら聞いた。


「簡単。誰にもバレなきゃいい」


「聞かれたら?」


「知らんって言う」


「見られたら?」


「もっと自信持って知らんって言う」


「デカくなって街燃やしてギルド燃やしたら?」


「ジロ」


「何?」


「あんたを人間盾にする。前の方」


「了解。質問終わり」


モチは頭を出して、城壁と旗と人を見た。

角はまだ柔らかく、翼は小さくて、開こうとして震えては失敗してた。

一瞬、母親のことを思い出した。

卵を見る目を。見知らぬ女に託した馬鹿みたいな信頼を。


マントを巻き直した。


「静かな場所探してやるからな。誰もあたしの名前叫ばないとこ」


『感傷に浸らないで。あの子が街を食べ物と勘違いする前に、何食べるか突き止めなさい』


---


ヴァレンフォート冒険者ギルドは正面に行列ができてた。

だから裏口から入った。

違法な竜を服の下に隠してる時は、まともな人間は裏口を使うもんだ。

廊下で書記が巻物の山を運んでた。

タラを見て、次にあたしの背中の剣を見て、税務署の幽霊でも見たみたいに全部落とした。


「ハザエ・イシザキ様!?」


「違う」


「でもあなたは……」


「あんたの想像。暑さのせいだよ」


「災厄竜を倒した方!」


「知らんな。その女。たぶん同じような金髪でデカい剣持った別人だよ」


「あれはカダヴァル・プトロル!」


「世の中には剣なんていっぱいあるんだよ。知ってた? なんか執着キモいよ。生身の女と喋ったことある?」


ジロは笑いを隠すために顔を背けた。サイは手で顔を覆って、名誉毀損の訴訟費用を計算してた。タラは書記を黙って見ただけだった。書記は謝った。タラに。口も開いてないのに。


ギルドマスターはガルドレンって髭の爺さんだった。

冒険者を見すぎて蜂蜜酒が足りてない顔をしてた。

契約の間で、サイが出した偽名の書類を受け取った。

いつもの偽名。「蜂蜜酒女王陛下の英雄的奉仕班」だ。


「ランクS+の契約は達成されたのか?」


「標的はもう脅威ではありません」


サイが、優雅に嘘をつく時のプロの声で答えた。


「証拠は?」


サイは机の上に、竜の古い鱗を置いた。

大きくて、古くて、縁は割れて、まだ温かい。

ガルドレンは調べて、退屈から尊敬に表情を変えた。


「これは……古竜の鱗だな」


「そうでした」


サイは素っ気なく訂正した。


ガルドレンがあたしを見た。剣を見た。もう一度あたしを見た。本物か確認するみたいに。


「ハザエ・イシザキか?」


「違う」


「今自分の名前で返事したぞ」


「統計的偶然。よくあること」


彼は、正午前に生きる気力を失った男みたいに深く息を吐いた。


「聞かなかったことにする。精神衛生上な」


優秀な職員だ。気に入った。マントを指さすまでは。


「中で動いてるのは何だ?」


モチは、その瞬間を狙い澄ましていた。

喜劇の悪役みたいな完璧なタイミングで、頭を出した。

金色の目がギルドマスターの目と合った。ガルドレンが瞬いた。モチも好奇心で瞬き返した。


そして、小さな竜は口を開けて、青い炎を吐いた。

精密で、外科的で、机の上の支払い用の巻物をピンポイントで燃やした。


沈黙は絶対だった。巻物が青く燃えてる。ガルドレンは炎を見た。次にモチを見た。次にあたしを見た。


「これは竜か?」


「違う。呼吸器系に重い疾患のあるトカゲ。火の逆流。あの歳じゃよくある」


『技術的には坊やに失礼ね。でも、あなたの嘘の中では一番マシだわ。成長ね』


ガルドレンはゆっくり立ち上がった。爆弾を刺激しないように動く人間の動きで。


「ハザエ、なぜギルドの中に古竜の雛がいる?」


物語をでっち上げようかと思った。

捨てられてたとか。ファンからのプレゼントとか。魔法異常で湧いたとか。流行りのアクセサリーとか。カツラとか。


でもモチはあくびをして、鼻から煙を出して、あたしの肩に溶けた。


ため息をついた。嘘より真実の方が疲れない時もある。


「今はあたしの責任だから」


ガルドレンは固まった。なぜか、その答えが、どんな脅しより彼を武装解除した。


「母親は死んだのか?」


頷いた。


「息子を頼まれた。約束した」


ギルドマスターは机の上の鱗に目を落とした。しばらく何も言わなかった。口を開いた時、声は低く、ハンコの音がしなかった。


「では報酬は支払われる。標的は排除ではなく、無力化されたと記録しよう。報告書が許す範囲でな」


「好きに書け」


ガルドレンは頷いて咳払いした。次に、赤い公式印と頭痛の匂いがする別の巻物を引っ張り出してきて、今日七つ目の問題がついに笑顔でやってきた。


「それから、損害の請求だ」


「損害?」


「救世主による、災厄竜戦闘時の損害だ」


彼は、神父が有罪判決を読む厳かさで読んだ。


「古い川の橋、真っ二つ。東の見張り塔、真っ二つ。鍛冶場広場の噴水、三つに切断。あと、リンゴの荷車、焼失」


「二撃目は翼を狙ったんだよ! 翼が橋の前にあったんだよ! 街が竜の射線上に橋を建てるのが悪いんでしょ!」


「一撃は翼を貫通し、橋を貫通し、塔の一部を貫通した。塔の一部が噴水に落ちた」


「効率的な一撃だったじゃん!」


「高価な一撃だったな。修理費は報酬から差し引く。半分は今。残りは次回だ」


サイが床に座り込んだ。文字通り床に。宝ごと船が沈むのを見た人間の動きで。


「半分」


彼女は囁いた。


「半分だ」


ガルドレンは嬉しそうでもなく確認した。


「あたし街救ったのに!」


「赤字で救ったな、嬢ちゃん。赤字で救っても赤字は赤字だ」


「いつか破産させられるわ」


サイが、天井を見て商業の神に忍耐を求めるみたいに呟いた。


「商売なんかないでしょ!」


「あったわ。あなたが人生に現れる前まではね」


---


残った金は三つの問題を解決して、四つの新しい問題を作った。

食料を買い、宿を払い、鍛冶屋と肉屋の間に挟まれた魔物屋の小さな店に入った。

店主のメルラってお婆さんが、モチを買おうとしてるんじゃないかって疑うくらい丁寧に調べた。


「驚異的だねぇ」


分厚い手袋で呟いた。


「古い血統だよ。鱗の色、翼の構造、まだ柔らかい角……この子、計り知れない魔力を秘めてるかも。ほんとに計り知れないねぇ」


モチは自分の尻尾を噛もうとした。失敗して、回って、横に倒れて、起きて、また挑戦して、反対側に倒れた。


「計り知れない可能性だよ」


メルラはプロとして繰り返した。


「自分自身に負ける才能もあるみたいだよ」


あたしは観察した。


「ハザエ」


タラが「赤ちゃんに意地悪言うな」ってトーンで警告した。


「何よ? 事実じゃん、才能だよ」


メルラは骨と火蜂の蜜の栄養スープと、サラマンダーの毛の毛布と、雛の体温調節用の燻り石を勧めた。

それから、蛇竜古種は気まぐれな食の好みを持つって説明した。


「ある子は赤身を好む。鉱物を吸収する子もいる。純粋な魔力を食べる個体の記録もあるし、強い感情を食べる子もいるの」


モチを見た。モチがあたしを見た。


「肉、食う?」


あくび。


「石?」


またあくびして、あたしの指を食おうとした。


「魔力?」


小さな竜はくしゃみをした。青い炎があたしの鼻を舐めて、目が涙目になった。


「図鑑買ってくる! デカいの! 絵付きの!」


店主は、初めての育児でパニックになった母親を見たことある人特有の、危険な優しさで微笑んだ。


「子育ては大変よ、ねえ」


「あたし誰の母親でもないから! 伝説級の戦士だから!」


モチは首に巻きついて寝た。青いよだれを襟に垂らしながら。温かくて。信頼しきって。


メルラは首を傾げて、勝利した。


「もちろんよ、ねえ。もちろん母親じゃないわ」


---


日暮れ、全部始まった酒場に戻った。

一番暗い隅の席を選んで、盗んだクッションの上にモチを置いて、蜂蜜酒を頼んだ。もう一杯。もうその時点で亭主は瓶ごと持ってきて、純粋な生存本能からだってフリをしてた。


朝から初めて、誰もあたしの名前を叫ばなかった。

誰も剣を指さなかった。

誰も化け物や報酬や武勇伝を聞いてこなかった。

ただ……平和に飲めた。

もしかしたら、国際問題を起こさずにイケメンを見ることさえできるかも。


茶髪の男が入ってきた。コートの雨を払って、二つ隣の席に座った。

背が高い。肩幅が広い。笑顔は感じがいい。見慣れたパニックはなし。


心臓が馬鹿みたいに跳ねた。


カダヴァルが即座に目覚めた。


『やめなさい』


「何もしてないじゃん!」


『背筋伸ばしたわね』


「座ってるだけ!」


『焼けた髪を直したわね』


「身だしなみよ!」


『また息を止めてるわ』


息を吐いた。

吐いた瞬間、一緒にどうしようもなく下品で低い音が漏れた。

わざとじゃないって誓う。酒場全体の音響を疑わせるような音だった。


ブウウウウッ!!


あたしのおならだ。デカい。容赦ない。

ロウソクが一本、恥ずかしさで消えた気がした。


男がこっちを見た。モチが片目を開けて、審判した。


『少なくとも今回は椅子のせいにしなかったわね。成長ね』


額を机に打ち付けた。人生は壮大な悲劇だった。

軍隊を飲み込む化け物を倒せても、ロマンチックな接近でジャガイモ畑を再考させるような音を出さずに生き残ることはできない。


男が立ち上がった。心臓が喉まで跳ねた。あたしの席まで来て、微笑んだ。


「すみません」


普通の声で言った。


「この竜、あなたのですか?」


モチを見た。男を見た。絶好のチャンスだった。

自然に答えて、笑って、会話を始めて、名前を聞いて、三十秒だけ普通の人間になれる。


「うん」


雪崩みたいな自然さで答えた。


「あたしの息子だよ」


男の笑顔は、誰かが消しゴムで消したみたいに消えた。


「む、息子……?」


「養子」


フォローしようとして、悪化させた。


彼は一歩下がった。


「なるほど。おめでとう。……素敵なご家族で」


そして行ってしまった。ほぼ走って。振り返らずに。


ドアを見つめた。


『やったわね。イケメンを見つけ、会話を始め、五秒以内に逃走させたわ。新記録よ。誇らしいわ』


「黙れ」


『効率に感心してるだけよ。ほとんど芸術的だわ』


「黙れって言ってんだろ!」


モチが叫び声に驚いて目を覚まし、パニクって袖をよじ登り、頭のてっぺんまで到達して、生きた温かくてよだれまみれの王冠みたいに収まった。


酒場全体が見た。子供が指さして、感動して言った。


「ママ見て! お姉ちゃん、竜の帽子被ってる!」


母親は、竜の帽子が伝染するみたいに子供を引っ張って離れた。ジロは笑いすぎて椅子から落ちて机に頭をぶつけて、さらに笑った。サイは、切った橋を払う足しにするために公開ショーでいくら取れるか、声に出して計算し始めてた。タラは腕を組んで、どうやらあたしの新しい落下防止ヘアスタイルの安全性に満足してるようだった。


そしてあたし、世界最強の女ハザエ・イシザキは、少し曲がった蜂蜜酒のジョッキを掲げて、厳かに誓った。


匿名で生きる。彼氏を作る。誰かとちゃんとキスして、衛兵を呼ばれないようにする。そして何より、この竜に前髪と眉毛と尊厳を燃やさないように教える。


モチが、演説に感動して鼻を鳴らした。


左の眉毛が燃えた。


カダヴァルが、頭の中で長く苦しげにため息をついた。


『まずは竜からにしましょう。彼氏は、あなたが自分自身に火をつけないことを覚えてからね』


あんまりにも叫んだから、三人の冒険者が武器を抜いて、吟遊詩人が演奏を止めた。


こうして、あたしの母親としての一日目は終わった。


緊急に休暇が必要だ。めちゃくちゃ長いやつ。できれば竜もイケメンも喋る剣も鏡もない場所で。


第三章・終

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