88話 忍び寄る視線
ダンジョンの地上出入口へ続く地上階段を上がると、秋の涼しい風とともに、見慣れた可憐な姿が視界に入った。
「兄さん! 迎えに来ました!」
「忍? わざわざここまでか……そうか、ありがとうな」
「はい! さあ、早く帰りましょう!」
忍は俺の姿を認めるなり、ぱっと顔を輝かせて駆け寄ってくると、俺の腕を両手でギュッと抱え込んだ。
「おい忍、引っ張るなよ……コケるぞ。葛西、じゃあまた明日な?」
「おう! 西条、忍ちゃん、気をつけてな〜!」
手を振る葛西に軽く頷き返し、俺は忍に引っ張られるようにして夕暮れの街を歩き出した。
「なあ忍、聞いてくれ。今日ダンジョンで思ったんだけど……俺、今すごく成長してる感じがあるんだよな。葛西も動きが良くなってきてさ」
自分の手のひらを握ったり開いたりしながら、最近の充実感を語る。
忍は俺の腕に頬を寄り添わせたまま、どこか愛おしそうな、けれど少しだけ含みのある声で返した。
「そうですか……ふふ、お強くなるのは素晴らしいことですけれど、あまり無茶はしないでくださいね?」
「分かってるよ。無理はしないって葛西にも言ったばかりだからな」
「フフ。それなら……良かったです♪」
鈴を転がすような笑い声。
「? 忍、どうした?」
「いえ……なんでもないですよ? ただ、ちょっとだけ……お腹が空いてしまいました。早くお家に帰りましょう、兄さん?」
「お、おう……そうだな」
忍は俺を見上げてにっこりと天使のような微笑みを浮かべると、さらに強く腕を抱きしめて歩調を速めた。
その背後——遥か遠くのビル影から、俺たちをじっと追う視線があった。




