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87話 気づかぬ成長

季節は巡り、10月の半ばを迎えていた。


朝晩の冷え込みが厳しくなり始めた頃、俺と葛西は二人だけでダンジョン12階層の攻略を続けていた。


「……まだ、王城は帰ってこないな」


「ああ。王城家の当主修行、マジで終わらねぇみたいだな……。生きてるとは思うけどよ」


手紙はたまに届くものの、舞香の復帰は未だ叶っていなかった。


3人パーティだった俺たちは、この1ヶ月近く、2人きりで連携を磨き続けてきた。


「西条、上からだ!」


「おう!」


頭上から襲いかかってきたのは、人間大の翼を持つ凶暴な魔物——シャドウバットだった。


葛西は素早い手つきで長槍を突き出し、空中でその胴体を的確に穿つ。


「よっしゃ!」


間髪入れずに襲いかかってきた2匹目に対し、葛西は冷静に槍の柄(え)を使って威力を殺さず、斜め上方へと豪快に跳ね上げた。


「グオーーッ!?」


「ナイス、葛西!」


体勢を崩して宙に浮いた魔物へ、俺は腰の『小虎』を一気に引き抜く。


ズバァァァンッ!!


真空を切り裂く極太の斬撃波が放たれ、シャドウバットを一瞬で一刀両断にした。


「ふぅ……なんとか、2人だけでもやれてるな?」


「そうだな。お前の槍の捌きも、かなり冴えてきてるぞ」


刀を鞘に納めながら声をかけると、葛西は自分の手回りをまじまじと見つめながら、首をかしげた。


「なあ西条……最近、なんだか身体が軽すぎないか? もしかして、俺にも魔力が本格的に宿り始めてんのかな?」


「そうかもな。モンスターを倒して経験を積むだけで、人間の限界値や魔力は自然と増えるらしいから。その可能性は高いと思うぞ」


実際、葛西の動きは夏休みの頃とは見違えるほど鋭くなっていた。


「まじか! じゃあ、もっと倒しまくって強くなろうぜ!」


「気持ちは分かるが、今日は一旦帰るぞ? 結構疲れたしな」


「……分かった。無理は禁物だな?」


「ああ。安全第一だ」


俺たちは互いに軽口を叩きながら、ダンジョンの地上へと続く階段へ足を向けた。


(……身体が軽い、か)


背後で無邪気に喜ぶ葛西を見ながら、俺は自分の手のひらをそっと握りしめる。

葛西が強くなっているのは間違いない。……だが、俺自身も感じていた。


(……まあ、調子がいい分には困らないか)


夕暮れの街並みへ戻る足取りの中で、結局、その違和感の正体が分からないまま、俺たちは帰路についた。




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