幕間「坂倉弁や!」
夕闇が濃く落ちる街の路地裏。
自販機の明かりだけがぼんやりと灯る薄暗い場所で、一人の男性が壁に背をもたれかけ、苦笑いを浮かべていた。特務機関の監視役——坂倉である。
そこへ、カツン、カツンと足音を響かせて現れたのは、白衣を纏った静香だった。
「あかんわ、やられてもうた……」
「何が?」
疲れ切った様子で頭を抱える坂倉に、静香は呆れたような視線を向ける。
「式神や! 忍ちゃんの周りに飛ばしとったやつ、影すら残さずに一瞬で消し飛ばされたわ……。ほんま、容赦なさすぎるで」
「そう? ……それより貴方、ここにどうして?」
「? 監視に決まっとうやろ、アホかいな。僕の仕事やで?」
「? まあ、それはいいとして……貴方、怒られるわよ? 貴方、確か出身は関東でしょう?」
「気にしたらあかんで? これは関西弁やのうて『坂倉弁』や。ニュアンスの違いなんやけん」
「最後のはどこの方言よ……」
「知らんけど?」
似非関西弁に別地方の方言まで混ざり始めた怪しいエセ方言に静香は思わず眉をひそめた。
本人はノリで押し通す気満々のようだが、言葉遣いのデタラメさに呆れるしかない。
坂倉はパンパンと服のホコリを払うと、気楽に肩をすくめた。
「さてと、もう行くわ〜。今日は陽向ちゃんもおらんみたいやし」
「ええ。あまり刺激しないようにね」
「分かっとるって。……まだ、な」
「……坂倉?」
「ほな、また〜」
ひらひらと手を振りながら、坂倉は夜の闇へと消えていった。
静香はその背中を冷ややかな目で見送りながら、「次はちゃんとした人員を回してもらうように上層部に掛け合おう」と固く心に誓うのだった。




