85話 一日遅れの誕生日祝い
翌日の放課後。
ホームルームの終わりのチャイムが鳴るや否や、直哉がものすごい勢いで俺の席へと突進してきた。
「西条!! 早く帰るぞ!!」
「お、おう……どうしたんだよ急に」
急かされるままに鞄を持ち、校門を抜けたところで、直哉は背負っていたリュックから恭しく立派な桐箱を取り出した。
「ほら! これ!」
「……肉?」
「おう! 家の店で手に入れた、最高ランクの魔牛の肉だ! 1日遅れになっちまったが、お前の誕生日祝いだ! 早くお前の家に行って食べようぜ!」
「……って、お前も食べるんかい」
俺の呆れたツッコミにも、直哉は「細かいことは気にすんな!」とニカッと笑って歩き出した。
「お邪魔しまーす! ……あれ? 忍ちゃんは?」
俺の家に上がり込んだ直哉が、キョロキョロと周囲を見回す。
いつもなら玄関のドアが開く前に出迎えてくる妹の姿が、今日はなかった。
「ああ。今日はなんか用事があるとかで、忙しいそうだ」
「そうか、そりゃ残念だ。……なぁ西条、卓上コンロと鉄板あるか?」
「ああ、今から出す」
戸棚からホットプレートを取り出し、電源を入れる。熱された鉄板の上に、直哉がトングで丁寧に霜降りの肉を乗せた瞬間だった。
ジューーーーーッ!!
部屋中に、食欲を暴力的に刺激する極上の脂の香りが弾けた。
「よし、焼けたぞ! 西条、食ってみろ!」
「お、おう……いただきます」
タレを少しだけつけて、口に運ぶ。
パクッ。
「……っ!! 美味い……!」
噛む力など必要なかった。
肉汁の甘みと旨味が口いっぱいに広がり、そのままスッと消えていく。
「はははっ! そうかそうか! 西条、喜んでもらえてよかったぜ!」
「すげぇなこれ。……ほら、お前も食えよ」
「おう! 遠慮なくいただくぜ!」
男二人、無心で肉を焼き、食らいつく。
——数十分後。
「ふぅー……食った食った……!」
大きく膨れた腹をさすりながら、直哉が満足げに息を吐く。桐箱の中にあった大量の肉は、綺麗に俺たちの胃袋へと消え去っていた。
「いや、本当に美味かった。あんな肉初めてだ……マジで舌の上で一瞬で溶けたぞ?」
「はははっ、美味かっただろ? まぁ、百万する肉だからな!」
「…………」
ピシッ。
俺の動きが、そして思考が完全にフリーズした。
あまりの金額に、喉の奥からせり上がってくるものを必死に飲み込む。
「あっ……」
直哉も自分がポロリと口走ったことに気づいたらしい。気まずそうに視線を泳がせ、慌てて両手を振った。
「す、すまん西条! 今のなし! 値段のことは忘れてくれ!」
「……できるかぁぁぁッ!!!」
俺の魂の叫びが、男二人しかいないリビングに虚しく響き渡る。
百万の肉を普段のノリで胃袋に放り込んでしまったという重すぎる事実に、俺はしばらく頭を抱えて悶絶するのだった。




