幕間 触らぬ神に祟りなし
特務機関・最高幹部会議
重厚な円卓が置かれた地下会議室。
静寂と張り詰めた空気を打ち破るように、上座に座る男が淡々と口を開いた。
「さて、会議を始める。……議題は西条忍。彼女についての報告をお願いできるかな?」
指示を受けた静香が、手元のファイルを開きながら毅然とした態度で立ち上がる。
「はい。彼女の魔力波長と存在次元を解析した結果……どうやら彼女は陽向と同じ『神』と同質の存在です。詳細な権能や能力の全貌は、現段階では不明」
「ふむ……」
「ですが、彼女は『兄』である西条章を絶対的な起点とし、彼の周囲に害をなす者には極めて攻撃的です。また、過度に接近する人物に対しても強い警戒・干渉行動を示しています」
静香の報告を聞き、円卓の一角にいた幹部が薄笑いを浮かべながら煙草の煙を吐き出した。
「へぇ……君の『ペット』と同じってわけだ?」
その言葉に、静香の眉がぴくりと跳ね上がる。
「陽向はペットではありません。それに、陽向はそんな無差別な排除行為などしません」
「そう? 首輪でもつけたら絶対に可愛いと思うけどねぇ」
「ッッッ……!」
不快感を隠さず鋭い殺気を放つ静香を制するように、上座の男がコンコンと指でテーブルを叩いた。
「静かに。……現時点で我々が介入すべき規模の被害や、大規模な信仰の変革が確認されていない以上——、現状維持だ。いや、念のため監視を強めにつけよう。坂倉」
指名されたのは、背もたれに深く腰かけ、つまらなさそうに爪を弄っていた男性——坂倉だった。
「はいはーい♪ もうやってますわ。……それにしても、うわぁ〜すっごく僕好みやで?一回捕まえて、その余裕ぶっ壊してみたいくらいやわ」
「……坂倉? 相手は神格だ。抜かるなよ」
「大丈夫やで? 今のところ、向こうにも全く気づかれてへんみたいやし」
「そうか。では当分は観察処分。『触らぬ神に祟りなし』だ」
会議が終了し、重苦しい地下施設の外へ足を踏み出すと、澄み渡る昼下がりの風が静香の頬を撫でた。
出口の壁に背を預けて待っていたのは、無口な教官だった。
「……大丈夫だったか?」
「ええ。なんとか乗り切ったわ」
静香は疲れたように細い息を吐き出した。
「……昼飯でも行くか?」
「そうね。思ったより早く終わったわね? 最高幹部に会うまで3日も待たされたというのに……」
「幹部なんてそんなもんだろ」
「ふふ、そうね……。じゃあ、今日の昼食は貴方の奢りよ?」
「……分かった」
愚痴をこぼしながら歩き出す静香の隣で、無口な教官はポケットに手を突っ込んだまま、静かに歩幅を合わせるのだった。




