82話 居候生活、最後の帰り道
それから数日が経った、いつもの放課後の通学路。
「後輩く〜ん! 明日ね? 先生が帰ってくるんだ〜!」
「そうなんですか。じゃあ先輩の居候生活も今日で終わりですね」
すっかり抱きつかれることにも慣れてしまった俺は、左から無邪気にすがりついてくる陽向先輩と、右から「これ以上密着させるものか」と対抗して腕をガッチリ組んでくる忍という、完全な板挟み状態のまま歩いていた。
「陽向先輩! いい加減に離れてください! 兄さんに馴々しく引っつきすぎです!」
「いやだも〜ん! 後輩くんの隣は私の特等席だもん〜!」
「もう……っ!! ……あれ?」
抗議の声を上げていた忍が、ふと足を止め、通学路の曲がり角の先へ鋭い視線を向けた。
「どうした、忍? 急に立ち止まって」
「ふふ……なんでもないですよ、兄さん?」
忍は一瞬でいつもの可憐で穏やかな微笑みに戻ると、何事もなかったかのように俺の腕をギュッと抱き直した。
「そうか? ならいいけど……」
「ええ! それより、今夜は兄さんの大好きなカレーですよ!」
「えっ! カレー!? 忍ちゃん、私、6杯は食べるよ〜!?」
「食べ過ぎです! 居候なんですから、少しは遠慮というものを覚えてください!」
「へへ〜ん、じゃあ手伝ったら文句ないでしょ〜?」
「……手伝えるのですか? 包丁なんて握れるんですか?」
「やったことないよ〜?」
「無理じゃないですか! 全く!」
「ひど〜い!」とはしゃぐ陽向先輩と、呆れたようにため息をつく忍。
夕道に落ちる三つの影を眺めながら、俺は二人の賑やかな喧嘩を心地よいBGM代わりに聞き流し、我が家へと歩を進めるのだった。




