9話 兄さん……濃いです
「兄さん……濃いです……えへへ……」
耳元で聞こえる甘ったるい吐息と、胸元に感じる柔らかい温もりで目が覚めた。
「おい、忍……はぁ……ベッドに潜り込むなよ……」
体を起こそうとするが、全身が重く、妙なだるさが残っている。
(おかしいな……。毎朝、忍がベッドに入ってくるとなぜか少し気だるい……。何かされてるのか……?)
そんな疑問が頭をかすめるが、寝ぼけた頭では深い思考に至らない。
俺が重い身体を擦りながらベッド端に腰掛けると、忍はパッと顔を輝かせて身を起こした。
「あっ! 起きましたか、兄さん? もうご飯できてますよ!」
「……おう」
リビングへ移動し、忍が作った朝食を口に運ぶ。
相変わらず味噌汁の出汁の取り方から何から完璧で、本当に手際が良い妹だ。
「そういえば兄さん、昨日葛西さんとお話しましたよ。とってもいい人ですね?」
「そうだろ? チャラチャラしてるが、根はいい奴なんだ」
「ふふ、ええ……とても」
忍は目を細め、どこか意味深な笑みを浮かべた。
一瞬だけその瞳の奥に冷ややかな光が宿った気がして、俺は手を止める。
「……?」
「あ、そうだ兄さん。これ、渡しておきますね?」
忍がポケットから取り出したのは、見たこともない複雑な紋様が薄く描かれた、小さな和紙のお守りのような紙だった。
「紙……?」
「はい。絶対にお守りになりますから……肌身離さず持っていてくださいね?」
そう言って忍は、俺の手を両手で優しく包み込み、紙を固く握らせてきた。
その手はどこか微かに震えているようでもあり、必死な思いが伝わってくる。
「……わかった。大事にするよ」
「はい! ふふ、良かったです」
安心したように花が咲くような笑顔を見せる忍。
俺はその紙をポケットの奥深くへと仕舞い込み、残りの朝食を平らげた。




