8話 神様と神様
夕闇が迫る校舎の裏手。人通りの途絶えた中庭で、二人の少女が向かい合っていた。
「えっと……何しようとしていたの〜?」
陽向先輩は相変わらず首を傾げ、ふんわりとした口調で尋ねる。だが、その瞳には一切の隙がない。
「分かりますよね? ……私と同じ存在なら」
忍の可憐な声から、完全に感情が削ぎ落とされていた。
「うん! でもね〜? しちゃいけないよ〜。めっ!だよ?」
「どうして?」
「?」
「兄さんは私のものです。誰にも渡しません」
陽向先輩は困ったように「う〜ん……」と頭を抱えた。
「こじれすぎだよ〜……」
「……消しましょうか? 貴方ごときなら、今ここで簡単に殺せますよ?」
忍がそっと細い指先を掲げる。空間そのものが軋み、大気が微動だにできなくなるほどの絶対的な死の気配。
だが、陽向先輩の顔に焦りはなかった。クスクスと可愛らしく微笑む。
「う〜ん、怖いね〜? ……でもね? 囲まれてるよ〜?」
「……?」
「気づかなかった〜? 先生たちが、ずーっと貴方のことを見張ってるよ〜?」
その言葉と同時に、校舎の屋上や木々の影から、息を殺した凄まじい威圧感が忍へと集中した。
先ほど教室にいた教官をはじめとする、校内の実力者たちが一斉に忍をマークしていたのだ。
「……そうですか」
忍は冷ややかに周囲を見渡し、掲げた手を下ろした。
ここで騒ぎを起こせば、兄さんに迷惑がかかる。
「うん! だからね? 学校では大人しくしてて? それと、他の生徒を殺さないでね〜?」
「……分かりました。ですが——兄さんと私の邪魔はしないでくださいね?」
「うん〜、わかったよ〜」
陽向先輩がフワリと笑うと、忍は翻るスカートとともに夕闇の中へスーッと溶け込むように姿を消した。
一人残された中庭で、陽向先輩は「ふぅ〜」と大きく溜息をついた。
「困ったなぁ……。後輩君、とんでもない神様に愛されちゃってるなぁ……」




