7話 やめましょう〜ね〜?
「あれ? 忍ちゃん?」
静まり返った放課後の保健室。ベッドの上でストレッチをしていた直哉が、ドアの隙間からすっと入ってきた少女に気づいて声をかけた。
「はい! 葛西さん……ですよね?」
「うん、そうそう! 覚えててくれたんだ!」
「お怪我は、大丈夫ですか?」
「おう、ピンピンだぜ! 陽向先輩の手当てがバッチリだったからな!」
無邪気に腕を叩いて見せる直哉に、忍は天使のような笑みを向けながら、静かな足取りでベッドへと歩み寄る。
「兄さんと……親しくしてくださっているそうですね?」
「おう! 西条とはもう最高の相棒だな!」
「……そうですか」
可憐な笑顔を張り付けたまま、忍はゆっくりと右手を伸ばす。その指先には、不可視の魔術が集約され始めていた。
「?」
直哉がその不自然な手の動きに首をかしげた——その瞬間。
ガシッ!!
忍の手首が、横から伸びてきた細い手によって固く掴み取られた。
「……っ!?」
「やめましょう〜ね〜?」
忍の手首を掴んだのは、先ほどまで奥の準備室にいたはずの陽向先輩だった。
いつもの語尾が伸びるのんびりとした口調。
「……? あなたは……そうですか貴方も」
「にこっ。……分かる〜? 少し、外でお話……いいかな〜?」
陽向先輩はニコニコと満面の笑みを浮かべている。しかし、その瞳は笑っていなかった。
一瞬の静寂。
(……チッ、邪魔が入りましたね)
忍は小さく舌打ちを噛み殺すと、スッと手首から力を抜き、何事もなかったかのように可憐な妹の顔に戻った。
「ふふ、葛西さん。兄のこと、よろしくお願いしますね?」
「おう! 任せておけって!」
何も知らない直哉が爽やかに親指を立てる。
忍は陽向先輩を一瞥すると、静かに保健室を後にした。




