6話 兄さんの邪魔をする『ゴミ』
保健室を出て校門へと向かう途中で、夕日に照らされた人影が立っていた。
「兄さん!」
忍が駆け寄ってくる。その瞳は俺の全身を舐め回すように検分し、傷がないことを確認すると安堵の息を漏らした。
「怪我……ありませんよね?」
「ああ、俺は平気だ」
「……あの、少し騒がしい人は?」
「葛西か? あいつはダンジョンで罠を踏んで、今保健室で休んでる」
「そうですか。上手く……したのに」
「……? 今、何か言ったか?」
ボソリとつぶやかれた言葉が聞き取れず聞き返すと、忍は可愛らしく首を傾げて微笑んだ。
「いいえ、何も? ……それより兄さん、これからは私も一緒に行きますから。私と『二人だけで』ダンジョンに潜りましょう?」
「う〜ん、無理だな。俺は葛西と一緒に潜るって決めたからな」
その瞬間、忍の笑顔がピキリと凍りついた。
夕暮れの校庭に、冷たい風が吹き抜ける。
「兄さん……? 何度も言わせないでくださいね? 私の言うことが……聞けませんか?」
声のトーンが一段低くなり、肌に刺さるような圧迫感が周囲を包む。俺は眉をひそめ、まっすぐに忍を見つめた。
「忍……最近おかしいぞ?」
「ッッッ……!」
俺の言葉に、忍はハッとしたように息を呑み、胸元を強く握りしめた。
「すみません……っ。兄さんまで失うと思ったら、私……おかしくなりそうで……」
幼い頃、両親を惨殺されたあの記憶。
妹が俺を失うことを恐れる気持ちは、痛いほど理解できた。俺にとっても、忍は世界でたった一人の家族なのだから。
「それは俺も同じだ。忍を失ったら、俺だって何をするか分からない」
「……! ふふ……兄さん……」
俺の言葉を聞いた忍の顔に、うっとりとした、どこか歪んだ喜色の笑みが浮かんだ。
「じゃあ、一緒に帰るか?」
「すみません、私は少しやることがありますので……兄さんは先にお帰りください」
「お、おう。あまり遅くなるなよ?」
「はい! 行ってらっしゃい、兄さん」
手を振る忍を残し、俺は帰路についた。
——兄さんの姿が完全に消えるまで見送った後。
「あは……兄さんも、私がいないと駄目なんですね……ふふ、嬉しい……」
愛おしそうに自分の頬を撫でた後、忍はゆっくりと保健室のある校舎の方へと視線を向けた。
「……でも、兄さんの邪魔をする『ゴミ』は……片付けないと」




