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78話 先輩との同居生活、始まります

「あっ、えっ……!?」


俺が固まっている隙を突き、扉の向こうにいた陽向先輩が、小走りで飛び込んできた。


「後輩く〜ん!」


「ちょっ……先輩!?」


勢いよく飛びつかれ、抱きつかれる。


甘い香りと柔らかな感触に焦る俺の背後から、凍てつくような冷気が漂い始めた。


「……誰ですか? 兄さん」


冷ややかな声とともに、忍が足音もなく忍び寄ってくる。その瞳からは完全に光が消え失せていた。


「あっ! 忍ちゃ〜ん! えへへ、今日から少しの間、おうちに泊まるね〜?」


「……兄さんから離れてください、陽向先輩」


「いやだもん〜! 後輩くんあったかいから離れないもん〜!」


「先輩! 一旦離れてくださいって!」


俺は必死に陽向先輩の肩を押し戻し、なんとか間合いを取った。


「うぅ……は〜い」


少し不満そうに唇を尖らせる先輩を前に、俺はようやく荒い息を整えた。


「……で、どうして急にうちに来たんですか?」


「えっ? あっ〜! そうだそうだ! はい、これ〜!」


陽向先輩がポケットから取り出し、押し付けるように渡してきたのは、通話中のスマートフォンだった。


『ぷるる……』


「? もしもし……?」


『もしもし? 西条君?』


スピーカーから聞こえてきたのは、あの静香先生の落ち着いた声だった。


「はい、西条です」


『急にごめんなさいね? 私の出張の間、少しの間だけ陽向を預かってくれないかしら?』


「いや……まあ、いいですが、どうしてうちに……?」


「断ってください、兄さん! こんな怪しい人を家に上げるなんて絶対ダメです!」


忍が俺の腕を力任せに引っ張り、激しい拒絶を示す。


しかし、静香先生は電話の向こうで困ったように笑った。


『陽向がね、「後輩くんのお家がいい〜!」って聞かなくて。……やっぱり、迷惑だったかしら?』


「いえ! 大丈夫です!」


「兄さん!!」


前に世話になった静香先生の頼みだし、断る理由もない。


『ふふ、助かるわ。それじゃあ頼むわね?』


「ええ、お任せください」


ガチャリ、と電話が切れる。陽向先輩は目を輝かせてこちらを見上げていた。


「どうだった〜!?」


「……はぁ。ええ、陽向先輩。数日間ですが、よろしくお願いします」


「うん〜! こちらこそよろしくね〜、後輩くん♪」


「よろしくね」と無邪気に笑う陽向先輩と、その背後で、笑顔のままこめかみをピクピクと引きつらせている忍。


……嵐の予感しかしない数日間が、こうして幕を開けたのだった。



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