77話 先輩が泊まりに来た
騒がしかった夏休みも終わり、季節は秋の気配を纏い始めた。
冒険者学校、2学期の初日。
教壇には、無口の教官が立っている。
「よし、全員揃っているな?」
教室を見渡すその眼光は鋭い。出席確認が終わると、一人の生徒が手を挙げた。
「先生! 王城さんがいません!」
教官は教科書をパラリとめくり、微塵も表情を変えずに言い放つ。
「あー……あいつは家庭の事情だ。生きてはいるし、大丈夫だ」
教室がどよめく。「そうですか!」と安堵の声が上がる。
「さて、夏休みのダンジョン攻略、10層までどうだった?」
教官の問いかけに、生徒たちが口々に報告を始めた。
「楽勝でした!」
「少しきつかったけど、8層までは行けたぜ!」
「……俺、5層までしか無理でした。歩くの疲れたし……」
実力の差が如実に現れる報告を聞き、教官は小さく肩をすくめた。
「まぁ、いろんな意見があるようだな。だが、無理だけはするなよ。死んだら終わりだ」
「はーい!」
休み時間になり、俺の席に葛西がのっそりとやってきた。
「西条?」
「なんだよ、葛西」
「……あいつ、やっぱり大変そうだな」
「そうみたいだな」
葛西が申し訳なさそうにポケットからクシャクシャになった紙を取り出す。
「これ……」
「?」
『葛西さん! 助けてくださいまし! 毎日死にそうですわ! 王城家の修行が厳しすぎて……!』
「……毎日死にそうって送ってくるくらいだし、大丈夫だろ」
「そうだな!……いや、そうか?」
葛西はそう言いながらも、少しだけ寂しそうな顔をしていた。
【放課後・帰宅】
久しぶりの学校で疲れた俺は家に戻ると、忍がエプロン姿で出迎えてくれた。
「兄さん! お帰りなさい!」
「おう、忍。ただいま」
「今日は、肉じゃがですよ?兄さん!」
忍は俺の腕に絡みつき、顔をスリスリと寄せてくる。
「えへへ……ぎゅ〜。……頭、撫でてください?」
少し甘えたような声でねだる忍の頭を、俺は観念して撫でてやる。
「ほらよ」
忍は「んぅ……」と心地よさそうに目を細め、俺の手に頭を預けていた。
その時だった。
ピンポーン。
「……? はーい」
俺が玄関へ向かい、ドアを開けると——そこには、陽向先輩がスーツケースを抱えて立っていた。
「後輩君! 数日泊めて〜?」
「……はぁ?」
予想外の展開に、俺は思わず裏返った声で聞き返すしかなかった。




