76話 夏休みの終わり
短いようでいて、あまりに濃密だった夏休み。
王城家での一件を終えた後も、俺と直哉は来る日も来る日もダンジョンへ潜り続けていた。
「そっち行ったぞ! 西条!」
「ああ!」
直哉の叫び声に呼応するように、岩陰から飛び出したのは無骨な石の巨人、岩石ゴーレムだった。
以前なら爆弾で爆殺していたが
——腰に差した、あの祖母から貰い受けた魔刀『小虎』。
小太刀を振るうのとは明らかに違う、刀身に宿る奔流のような魔力を感じ取りながら、俺は迷いなく振り抜いた。
「——ッ!!」
ズバァァァァンッ!!
鈍い金属音すら聞こえない。
ただ、凄まじい衝撃波がゴーレムの巨体を通り抜けた瞬間、全身に蜘蛛の巣のような亀裂が走り、次の瞬間にはただの砂山となって崩れ落ちた。
「すっげーな、西条! 相変わらず一太刀で終わりかよ!」
「……そうか? この刀がヤバすぎるだけかもしれないな。振るだけで魔力が勝手に乗るんだ」
「そうだな……魔導武器ってのは、そんなチートじみた性能ばっかりなのか? 俺もいつか自分専用の一本、欲しいぜ!」
「おう、頑張れ。俺ももっと使いこなせるように精進するよ」
刀を鞘に収めながら、ふと、隣で戦うはずだった舞香の姿を思い浮かべる。
「……それより、王城。今日も来ていないな」
「ああ……王城家の次期当主候補教育だろ? 大変なんだろうな」
「そうか……そうだな。よし! 西条、あいつもあいつの場所で頑張ってるんだ。俺たちも、2学期までにさらにレベルアップしとこうぜ!」
「おう!」
互いの拳を軽く突き合わせ、そして俺たちは来る日も来る日もダンジョンへ潜り続けた……たとえ離れていても、目指す場所は同じだと信じて。
【帰宅後】
「兄さん! お帰りなさい!」
玄関のドアを開けた瞬間、いつものように忍が笑顔で出迎えてくれた。
「おう、忍。ただいま」
「今日のお夕食は、兄さんの大好きなハンバーグですよ!」
ふわりと漂ってくる、焼きたての香ばしい肉の匂い。外の世界で命のやり取りをしてきた身体に、その温かい香りが染み込んでいく。
「ありがとうな、忍。……いつもすまない」
「いえいえ、兄さんのためなら何でもしますよ?」
忍は何も聞いてこなかった。ただ、柔らかな手つきで俺のコートを受け取り、ハンバーグを乗せた皿をテーブルに運んでいく。
夏休み最後の夜は、そんな何でもない会話とともに過ぎていった。




