75話 後始末
「成彦様を確保いたしました!」
教会の入り口へと駆け込んできた私設警備兵たちが、拘束された成彦を引きずってやってくる。
成彦は、先ほどの覇気が嘘のように抜け落ち、呆然とした虚ろな瞳でただ空を眺めていた。
「そう、ご苦労様」
祖母は部下を一瞥すると、すぐに舞香へと向き直った。
「さて……舞香」
「お、お祖母様……?」
「今日から貴方を、王城家の次期当主候補として教育します」
「なっ……! なんでですのーーっ!?」
舞香が仰天して声を上げる。しかし、祖母の表情は微塵も揺るがない。
「ふふ、必要な手続きや挨拶回りも山ほどあるわ。さあ、こちらに来なさい」
「ちょっ、お祖母様、心の準備が……!」
祖母は舞香の返事を聞くこともなく、その腕をしっかりと掴み上げる。
そして、立ち尽くす章と直哉に向けて、優雅に微笑んだ。
「ごめんなさいね? 二人とも。舞香はしばらくの間、お預かりするわ。……まあ、地獄のような特訓が終われば、またダンジョンに復帰させるからね?」
「何をするんですか……お祖母様!?」
「少し、貴方のその『甘え』と『慢心するクセ』を矯正するだけよ」
祖母の言葉に、舞香の顔が青ざめる。直哉は状況を完全に理解してはいないようだが、舞香の肩をポンと叩いてニカッと笑った。
「そうか! 舞香、行ってこいよ! 帰ってきたらもっと強くなってるんだろ? 楽しみにしてるぞ!」
「ちょっ、葛西さん……! 助けてくださいましーー!!」
舞香は連行されながら、俺達の方を必死に振り返って手を伸ばしていた。
その姿が見えなくなるまで見送り、ふと隣を見ると、いつの間にか忍が側に立っていた。
「兄さん!」
「忍! ……どこに行っていたんだ?」
いつの間にか消えていたはずの忍が、何食わぬ顔で微笑んでいる。
「ふふ、少し用事で……」
「そうか……まあ、戻ったならいい」
「はい! さあ、帰りましょう?」
忍が俺の腕を自然に組んでくる。
その時、空腹で腹の虫が鳴った直哉が、槍を背負いながら明るく声を上げた。
「西条! せっかく教会まで来たんだ、帰りにラーメンでも食いに行こうぜ!」
「いいな! ちょうど腹が減ってたところだ」
俺が賛成した瞬間、腕に絡む忍の力がピクリと強まった。
彼女は俺を見上げたまま、甘く、しかし決して譲らない声で告げる。
「……兄さん。今日は疲れているのですから、寄り道せずに真っ直ぐ帰りましょう?」
「えっ、でも……」
「ダメです。私が兄さんのために、一番美味しい夕食を用意して待っていますから」
忍の瞳が、俺を静かに射抜いている。
そのあまりの圧に、俺は直哉に対して「すまん」と心の中で謝るしかなかった。
「……ああ、そうだな。忍の言う通り、今日は帰ろうか」
「そっか、残念だな……。わかったよ、また今度な!」
直哉が肩をすくめて背を向けたのを確認し、忍は俺の腕をさらに強く抱き寄せて、勝利の笑みを浮かべるのだった。




