幕間 数ヶ月後 —— 冒険者学校・保健室
教育実習を無事に終え、正式に教員として採用されてから数ヶ月が経った。
「先生! この子、実習中に怪我をしちゃって……っ! 治せますか!?」
慌ただしく開いた保健室の扉から、顔を蒼白にした生徒たちが飛び込んでくる。
「落ち着きなさい。……大丈夫よ、この薬を傷口に塗って、これを飲ませてあげて」
「あ、ありがとうございます!」
手際よく応急処置を施していると、間髪入れずに別の生徒が駆け込んできた。
「先生! こいつ、訓練用ダンジョンで罠を踏んじゃって……毒が回ってます!」
「すぐに奥のベッドに寝かせなさい! 解毒ポーションの準備をするわ!」
——それから1時間後。
無事に全ての生徒の治療を終え、静まり返った保健室に静香の長いため息が響いた。
「ふぅ……。まさか戦闘の指導教官ではなく、保健医として重宝されることになるとは思いもしなかったわ……」
パイプ椅子に深々と腰掛け、疲れた首筋をほぐしていると、空間がふわりと揺れて甘い香りが立ち込めた。
「お疲れさま〜、静香ちゃん! ぎゅ〜っ♪」
「……陽向、ありがとう」
背後から首元に抱きついてくる陽向のぬくもりに、静香は苦笑しつつも体を預けた。
「ねぇねぇ? 静香ちゃん」
「なぁに?」
「みんな、静香ちゃんのこと『先生』って呼んでるね?」
「ええ。まあ、そういう立場だからそうね」
「ん〜……私も『先生』って呼んだ方がいいのかな〜?」
「ふふ、どっちでもいいわよ? 貴方の呼びやすい方で」
静香が優しく微笑むと、陽向は一瞬パッと目を輝かせ、ぎゅ〜っとさらに強く静香の腕に擦り寄ってきた。
「う〜ん……先生っ!」
「っ……ちょっ、陽向……!?」
「先生! 先生〜! えへへ〜♪」
「もう、仕方ない子ね……」
無邪気にはしゃぎながら「先生」と連呼する陽向の頭を優しく撫でながら、静香は保健室の穏やかな午後の光の中で、ふっと柔らかい笑みをこぼすのだった。




