幕間 ダンジョン実習の記録3
衝撃とともに地面を転がったが、静香にそれ以上の痛みは訪れなかった。
「ほら、これ飲め!」
強引に口元へ押し当てられた瓶から、苦い液体を吐き出しそうになりながら必死で飲み干す。
ごくごくと喉を鳴らして飲み干すと、焼けるような痛みが引き、真っ白だった視界が急速に鮮明さを取り戻した。
だが——視界が戻った直後、静香は目を見張った。
「えっ……!?」
差し出された万能薬の空き瓶を握りしめていた彼の脇腹が、無残にも深く抉られ、鮮血がボタボタと床を濡らしていたのだ。
静香を突き飛ばし、代わりにスコーピオンの毒針を受け止めたのは明白だった。
「っ……おい、ボーっとするな。今、あいつの腹の装甲が割れて弱点が露出している……! あそこに攻撃しろ!」
「わ、分かったわ……っ!」
静香は恐怖を振り払い、全魔力を指先に集中させた。
閃光とともに放たれた極大の魔力弾が、スコーピオンの剥き出しの弱点を直撃し、内部から打ち砕く。
ズシーン……ッ!
巨体が地鳴りを立てて倒れ込み、静寂が訪れた。
「あなた……! すぐに回復しないと……っ! ポーションは!?」
「あー……さっきの衝撃で、腰のポーションは全部割れた」
「そんな……! 毒が回ってしまうわ……!」
「……俺が油断したのが悪い……」
自責の念と絶望で動転する静香だったが、ふと思い出したように己の胸元に手を当てた。
「そうだ……! 陽向!」
ぽんっ、と甘い香りの空間の歪みから、土地神の少女が姿を現した。
「は〜い、何かな〜?」
「お願い、彼を治して……!」
「いいよ〜♪」
陽向がふわふわとした手つきで彼の傷口に触れると、溢れ出る温かな光が抉れた脇腹を瞬時に塞ぎ、体内の毒を綺麗に浄化していく。みるみるうちに傷が塞がっていく様子を、教官は無言で、だが驚愕に目を見開いて見つめていた。
「……驚いたな。どこから出したんだ、こいつ」
「それは……」
静香が言い淀むと、彼は塞がったばかりの脇腹をポンポンと叩き、いつもの不機嫌そうな無口な表情に戻った。
「……まあいい。見なかったことにする。それと、実習は合格だ」
「えっ……?」
「さっさと戻るぞ。……腹が減った」
「……ええ! ふふ、そうね!」
無愛想で不器用な教官の背中を追いかけながら、静香は自分の中に湧き上がる信頼感を噛み締めるのだった。




