71話 わたくし、プツンと切れましたわ
「さて……愚妹、戻ろうか?」
成彦は倒れ伏す直哉に見向きもせず、胸元を握りしめて震える舞香へと歩み寄った。
「葛西……さん……っ」
舞香が涙を浮かべたその時、ガレキを押し退けて、血まみれの直哉がフラフラと立ち上がった。
「まだ……終わって……ないぞ……!」
「……? これは、少々ナメすぎたようだね」
膝をガクガクと震わせ、荒い息を吐きながらも、直哉は絶対に諦めない鋭い眼光で成彦を睨みつけていた。
「ハァ……ハァ……」
「しつこいね。なら……腕の一本くらい、切り落とされる覚悟をしてもらおうかな?」
成彦は呆れたように息を吐くと、腰の鞘からスーッと一本の刀を引き抜いた。
極上の魔力を秘めた刀身が、怪しい光を放つ。
「これは『小虎』だよ。現代の鍛冶師が打った逸品でね、Aランク魔物7体を同時に真っ二つにした代物だ。……君みたいな凡人には、些か勿体なさすぎるかな?」
「ハァ……ハァ……っ!」
「さて……いくよ?」
成彦が刃を直哉に向け、一瞬で間合いを詰めようとした——その時。
「待ってください、兄さま」
舞香が、静かに二人の間に割り込んだ。
「……? 愚妹、どうしたというのかな。僕の邪魔を——」
ドォォォンッ!!
「がはっ……!?!?」
爆音とともに、成彦の体が弾丸のように吹き飛び、凄まじい勢いで壁へと叩きつけられた。
腹部にめり込んでいるのは、舞香が短縮詠唱なしで放った至近距離の【爆炎魔法】。
「……わたくし、プツンと切れましたわ」
舞香の純白のウェディングドレスが、怒りで沸き立つ膨大な魔力によって激しくたなびく。
その眼光は、今まで見たこともないほど冷たく、鋭かった。
「なっ……お、愚妹……貴様……っ!?」
「兄さま? 葛西さんに対してそこまでやるとは……ですわ。ですからわたくしも、もう出し惜しみなしですわ!!」
「はっ……待っ——」
ドォォォンッ!!
「ぐあぁっ!?」
言葉を挟む余裕すら与えず、追撃の極大圧縮魔法弾が成彦の胸元を撃ち抜く。
ドォォォンッ!!
「ぐわぁぁぁぁッ!!」
さらに天井を穿つほどの落雷魔法が追撃で直撃し、成彦はもはや悲鳴をあげることすらできず、白目を剥いて床に沈んだ。
「……」
教会の広間に、静寂が訪れる。
焦げた煙が立ち込める中、成彦の惨状を見下ろしていた舞香は、ふぅと短く息を吐いた。
「ふぅ……スッキリいたしましたわ!」
ドレスの裾を上品につまみ、何事もなかったかのように可愛らしく首を傾げる舞香。
ボロボロになりながらその光景を見ていた直哉は、「お、おう……マジかよ……」と冷や汗を流しながら呆然と立ち尽くすのだった。




