68話 ちょっと待てぇぇーーー!!
教会に重苦しい鐘の音が響く。
祭壇の前、神父の厳かな声が空気に溶け込んでいく。
「揃ったようだね? では……新郎〇〇。あなたはここにいる王城舞香を、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」
新郎——成彦が用意した、家柄だけの名門の息子。
成彦は舞香を見て、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「はい、誓います」
次いで、神父は舞香へと向き直る。
「新婦、王城舞香。あなたはここにいる〇〇を、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」
舞香の喉が苦しく鳴る。
……返事をしなければ、この場で拒絶すれば、家にどれほどの迷惑がかかるか分からない。
それどころか、章や直哉たちにまで累が及ぶ。
「……はい……誓います」
絞り出すような小さな声。それが、彼女の人生を閉ざす合図だった。
「それでは、誓いのキスを」
新郎の手が、ゆっくりと舞香の顔を覆うレースのベールへと伸びる。
ふわりと上げられた先で、彼と視線が交差した。
写真ではくたびれた印象しかなかった男も、髪を整え、礼装に身を包んだ今は、思っていたほど悪い容姿ではなかった。
(ごめんね……私、もうどうでもいいですわ。わたくしなんて、どうなっても……)
男が距離を詰めてくる。
舞香は諦念とともにそっと目を閉じた。
——その時、脳裏を過ったのは、あの夏の祭りの光景だった。
『おお! 金髪でも浴衣ってめちゃくちゃ映えるんだな! いいと思うぞ!』
無骨な笑顔。何の含みもなく、真っ直ぐに浴衣を褒めてくれた直哉の顔。
(ッッッ……!)
瞼の裏で、あの時の直哉の笑顔が焼き付く。心臓が痛いほど脈打つ。
舞香の頬を一筋の涙が伝った。
「……?」
直前で止まった男が、当惑して動きを止める。
その刹那——。
ドォォォォンッ!!
教会の扉が、蝶番が悲鳴を上げるほどの力で粉砕された。
「その結婚、ちょっと待てぇぇーーー!!」
硝煙と砂埃が舞う中、そこに立っていたのは、槍を背負い、怒りで目を充血させた直哉の姿だった。
「えっ……葛西さん……!?」
舞香の瞳に、再び生きた光が宿る。会場がどよめき、成彦の顔が鬼のように歪んだ瞬間だった。




