65話 パーティを抜けた理由
【王城家 本邸:応接間】
静まり返った豪華な応接間に、冷ややかな紙の擦れる音が響いた。
「ふむ……愚妹、良かったな? お前にもようやく見合い相手ができるぞ。ほら、これだ」
王城家の長男であり、舞香の兄である王城成彦が、テーブル越しに一枚の見合い写真を滑らせた。
「ッッッ……!?」
差し出された写真に目を落とした舞香は、息を呑み、絶句した。
「相手は40代でな? 我が王城グループの一次請け企業、その役員の息子だ。先方も随分とお前を気に入っているらしい、お前も問題ないよな?」
成彦は嘲笑を浮かべ、脚を組み直した。
成彦の機嫌はここ数日ひどく荒れていた。そのはけ口を求めるかのように、妹へ冷酷な言葉を浴びせかける。
「はい……問題、ありませんですわ……お兄さま……」
舞香は唇を強く噛み締め、悔しさに震える手で膝のスカートをぎゅっと握りしめた。
実家の影響力と兄の決定には逆らえない。
だからこそ、直哉や章たちに迷惑をかけまいと、黙ってパーティ離脱の手紙を出したのだった。
「なら良かったよ。ではその方向で、父さんたちには僕の方から話を通してあるからね?」
「……はい」
父はすでに了承している。母にこの決定を覆す力はなく、今この家で舞香の味方になれる唯一の祖母も遠方へ視察に出ている。
絶望に打ちひしがれ、舞香がうつむいたその時——応接間の扉が慌ただしく開いた。
「成彦さま!」
「どうした? 騒々しい」
「そ、それが……外で、その……『お嬢さまに会わせろ』と、無茶な要求をしてくる男子生徒たちが押しかけておりまして……!」
「……? 僕が行こう」
成彦は不快そうに眉をひそめると、身なりを整えてゆっくりと立ち上がり、玄関へと向かった。




