64話 王城が……王城のやつがッ!
ダンジョン攻略は同じ階層を周回し、苦手なモンスターと重点的に戦う地道な訓練の日々。
そしてその度に、なぜか身体が嘘のように軽くなっていく
——そんな不思議な違和感を抱えたまま、夏休みも後半を迎えていた。
ある日の朝。
「おい! 西条!!」
激しく玄関のドアが叩かれ、息を切らした直哉が飛び込んできた。
「どうした? 朝からいきなり家に押しかけてきて……」
「王城が……王城のやつがッ!」
「……? まあ入れって。話は中で聞くから」
リビングに通すと、忍が手際よく温かいお茶とお茶漬けの碗をテーブルに並べた。
「葛西さん、お腹空いてますか? 朝早くから大変でしたね、お茶漬けでもどうぞ」
「助かる! 忍ちゃん! 朝から大慌てで走ってきたから腹減ってたんだ!」
「……」
直哉はガツガツと猛スピードでお茶漬けを胃袋へ掻き込んだ。
「ふぅ……ごちそうさま! ……そうだ、西条! これを見てくれ!」
直哉がポケットから取り出し、テーブルの上に広げたのは一通の手紙だった。
そこには、舞香の品のある、だがどこか焦りの滲む筆跡でこう書かれていた。
『葛西さん、申し訳ありませんが、ダンジョン攻略はこれからはご一緒できませんわ……。西条さんにもその旨、お伝えくださいませ。それでは、ご機嫌よう』
「どういうことだ……? 急にパーティ離脱なんて、あいつらしくないだろ」
「さあ、俺にもさっぱり分からない! だから今からあいつの家に行って、直接確認しようと思うんだ!」
「わかった、俺も行く。放っておけないしな」
俺たちが立ち上がると、見送るために玄関へ回っていた忍がそっと袖を引っ張った。
「兄さん……?」
「……?」
「……ふふ、気をつけて行ってきてくださいね?」
一瞬だけ暗い影が瞳を過ったような気がしたが、忍はすぐに天使のような満面の笑みを浮かべた。
「おう、行ってくる」
(……お姉さんがどうなろうと興味はありませんけど……兄さんを面倒事に巻き込むなら、少し確認しておいた方がよさそうですね)
背後で可憐に手を振る忍の真意に気づくこともなく、俺と直哉は急ぎ王城家へと向けて走り出した。




