63話 ……弱くないか?
「なあ、西条?」
「どうした?」
直哉が額の汗を拭いながら、不思議そうに周囲の岩壁を見回した。
「ここ、10階層だよな?」
「ああ、間違いない」
「……弱くないか?」
俺は苦笑いして頷いた。確かに、ここまでに出現したゴブリンの群れも、岩石ゴーレムですら、手応えがあまりに薄い。
「それはまあ、俺も感じてる。もっと手こずるかと思ってたんだが」
「次、行こうぜ? まだまだ余裕あるし!」
「ダメだ。先生から10層までって厳重に言われてるだろ。それに……」
視線を向けると、舞香が肩を上下させて激しく呼吸していた。
「ハァ……ハァ……っ」
「王城が思ったより疲れてる。これ以上は危険だ」
「大丈夫ですわよ……っ!? これくらい……ふぅ、ふぅ……っ」
強がっているが、その足は既に小刻みに震えていた。俺たち二人が異常なほど快調な一方で、舞香の疲労は隠せていない。
「……無理は禁物だな」
「そうだな! 一度戻るか! 西条」
「ああ」
直哉が腰を落とした。
「ほら、王城」
「……?」
「背中、乗れ」
「葛西さん……っ! あ、ありがとうございますわ……っ!」
舞香は一瞬だけ躊躇いを見せたが、ふらつく足で直哉の背中に遠慮がちに手を回した。
「……おい、大丈夫か、葛西? おぶってて重くないか?」
「おう! ……いや、驚いた。まるでおんぶしてないみたいに動きやすい」
「……そうか。……どうなってるんだ?」
俺たちの身体になにか異常な力が満ちているような感覚。ダンジョンによる補正なのか、それとも……。
「さあな? ま、細かいことは地上に出てからだ。帰ろうぜ、西条!」
「ああ。まずは地上に出よう」
俺たちは不思議な高揚感を覚えながら、足早に帰路へと着いた。




