62話 なんか、体が軽い
【本ダンジョン:5階層】
洞窟内に漂う湿った空気と、仄暗い結晶の光。足元に転がるゴブリンの残骸を踏み越えながら、俺たちは順調にダンジョンの奥へと進んでいた。
「5階層まで来たけど、拍子抜けするくらい楽勝だな!」
「油断するなよ、葛西。またあの初心者ダンジョンの時みたいに毒の罠を踏むかもしれないんだからな」
「おう……流石にあの毒の痺れはもう御免だぜ」
長槍を肩に担ぎながら苦笑いする直哉。その少し前を、舞香が小鼻を膨らませて鼻歌交じりに歩いている。
「ふん〜ふん〜ふん♪」
「……王城のやつ、めちゃくちゃご機嫌だな」
「そうみたいだな」
「ここまで来るのに、何回か魔物にトドメを刺させたからか?」
「そうかもな。西条、あいつ今回はちゃんと詠唱して魔法撃ってたしな」
「それは俺が前に『威力を出すならしっかり短縮せずに詠唱しろ』って指示したからな。素直に聞いた結果、一撃で倒せるようになって相当嬉しいんだろ」
俺たちのヒソヒソ話を耳ざとく聞きつけた舞香が、くるりと振り返って胸を張った。
「ねぇ! この先の戦闘も、全部わたくしに任せてしまってもよろしくてよ?」
「悪い、そろそろ俺にも獲物を譲ってくれ」
「分かりましたわ、西条さん! もし手助けが必要になったら、遠慮なく言ってくださいましね!」
ご機嫌な舞香に見送られ、俺は通路の開けたフロア中央へと足を踏み入れた。
ズズズ……と地鳴りのような音を立てて壁の岩石が集まり、巨躯を誇る「岩石ゴーレム」が姿を現す。
「さて……ゴーレムか」
俺は腰の小太刀に手をかけ、視線を低く落とした。
ゴーレムと真正面から向かい合い、一瞬の踏み込みで間合いを詰める。
頭上から振り下ろされた岩の巨腕。
巨体ゆえの大振りのパンチを紙一重で滑り込むように回避し、そのまま足元を通り抜けて背後へと滑り込んだ。
(よし——)
小太刀を振るうのではなく、懐から取り出したC4爆薬をゴーレムの背中の亀裂に素早く設置。そのまま跳躍して距離を取る。
「……爆ぜろ」
パンッ! とスイッチを押した瞬間、背後でドカンッ!! と重低音が轟いた。
爆風とともに岩石の巨体がバラバラに吹き飛び、煙が晴れた後には転がる「魔石」だけが残されていた。
「ふぅ……」
「……西条、お前……剣士の戦い方じゃなくて、えげつないな……」
「? そうか? 硬い奴には効率的なんだが……」
「凄いですわ〜! 爆発の魔法みたいです! わたくしもあのような派手なやり方、試してみたいですわー!」
「お、おう……王城がやると街ごと吹き飛びそうだからやめてくれ……」
興奮する舞香を宥めながら、俺は自分の手元をそっと見つめた。
(……? なんか、さっきから妙に体が軽いような気がする。動きのキレが初心者ダンジョンの時とまるで違う……どうしてだ?)




