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59話 花火より、綺麗なもの

「ふぅ、疲れたな……」


賑やかな境内を歩き回り、少し離れた静かな境内のベンチに腰を下ろす。


忍は今、直哉や舞香たちと一緒に屋台で追加の食べ物を買いに行っている。


一人で夜風に当たっていると、背後からふわりと甘い香りが漂ってきた。


「後輩く〜ん」


「あっ、先輩」


振り返る間もなく、横からぬくもりが飛び込んできた。


「ぎゅ〜っ……えへへ」


「っ……! あの、なんで毎回抱きついてくるんですか……?」


「え〜? 美味しいから〜♪」


「……??(美味しい……??)」


相変わらずの謎発言に首を傾げていると、陽向先輩は俺の肩に顎を乗せ、どこか安心したように目を細めた。


「後輩くんに抱きつくとね〜、心がポカポカして元気になるんだよ〜?」


「そうですか……?」


「うん〜……それに、先生より……」


——ドーンッ!!


「あっ! 花火だ〜!」


言葉の続きは、夜空を大きく揺らした重低音と眩い光に吹き消された。


打ち上がった大輪の花火が、二人を鮮やかに照らし出す。


「葛西さん! もう花火が始まってしまいました!? 遅すぎます! 兄さんを待たせるなんて……っ!」


「妹ちゃん無理だって! 焼きそばと唐揚げこんなに大量に持ったことねえから!」


「葛西さん? わたくしも持ちましょうか?」


「いや、いい! これくらい意地で持ってみせる!」


「ちょっと買いすぎじゃないかしら? 私の財布が空っぽになったわよ……まあ、いいけれど」


両手に山ほどの屋台飯を抱えた直哉、文句を言いながら並んで歩く舞香、そして呆れ顔の静香先生が戻ってきた。


その先頭を歩いていた忍が、俺と陽向先輩の姿を見つけるなり、目の前まで飛んできた。


「陽向先輩、何してるんですか……」


「陽向、こっちにいらっしゃい」


「は〜い、先生〜」


静香先生に手招きされ、陽向先輩は名残惜しそうに俺から離れていった。


代わりとばかりに、忍が猛烈な勢いで俺の胸元へと飛び込んでくる。


「兄さんっ!」


「おう、おかえり忍」


ぎゅっとしがみついてくる忍の身体越しに、次々と打ち上がる花火を見上げる。


夜空を紫や金に染める光が、忍の濡れた瞳に反射していた。


「……綺麗ですね?」


「そうだな」


俺が夜空の花火に見とれていると、忍は俺のシャツの裾をクイッと引っ張り、少し頬を膨らませた。


「もう! そこは……『花火より、お前の方が綺麗だよ』ですよ……!?」


「ん? なに言ってるんだ、忍の方が綺麗に決まってるだろ?」


「ッッッ……!!」


何の気なしに素で返すと、忍は一瞬で顔をりんごのように真っ赤にし、絶句した。


「……っ〜〜〜! ま、まあいいです! 今回は合格にしてあげます……っ!」


「……??(何が合格なんだ……?)」


顔を背けながらも嬉しさを隠しきれずに俺の腕を強く抱きしめ直す忍と、花火の爆音の中で、俺たちの賑やかな夏休みの夜は更けていくのだった。



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