58話それぞれの夏祭り
境内の奥へと進むと、色鮮やかな屋台の灯りが立ち並び、香ばしい匂いと人々の賑やかな歓声が夜空に溶け込んでいた。
「兄さん?」
「ん?」
忍が足をとめ、ぽんと小さな手を屋台の方へと向けた。
「あれ、りんご飴です」
「おう、食べるか?」
俺が買って手渡すと、忍は可愛らしく「あむ」と赤い飴の角を小さくかじった。
「ふふ、美味しいです」
「そうか、良かったな」
「はい……兄さん?」
忍が差し出してきたツヤツヤのりんご飴に、俺は首をかしげつつもそのまま顔を近づけた。
「おう……あむ」
「どうですか?」
「ん、甘いな。普通に美味いりんご飴だ」
「ふふ、そうですね。パクッ」
俺が口をつけたのと全く同じ場所を、忍は何事もないように口に含んで嬉しそうに微笑んだ。
一方、少し離れた屋台の立ち並ぶ通りでは、直哉と舞香が射的の台の前で熱くなっていた。
「こっちですわ、葛西さん! 射的がありますわよ!」
「よっしゃ! 景品根こそぎ狙い撃ちにしてやるぜ、俺に任せろ!」
直哉がコルク銃を構え、狙いを定めて引き金を引く。
ポンッ……ポロ。
「あれ……?」
「もう一度だ!」
ポンッ!……ポロ。
「あれれ……!?」
的にかすりもしない直哉の不器用さに、舞香が呆れたように腰に手を当てた。
「葛西さん、一体何をやってらっしゃいますの!? 射的というのは、こうやって狙うのですわ! ——ポンッ!」
シュッと放たれたコルクが見事に的に命中し、パシッと音を立てて飾りのぬいぐるみがコトッと倒れた。
「やりましたわ! 見ましたこと!?」
「すげーな王城! 一発かよ!」
はしゃぐ舞香に、直哉が目を輝かせて拍手を送る。
少し後ろのベンチでは、静香先生と陽向先輩がのんびりとたこ焼きをつついていた。
「えへへ、先生! たこ焼き美味しいよ〜?」
「陽向、口元にソースがついているわよ?」
「え〜? 取って取って〜?」
「はいはい、じっとしてなさい。……ごしごし。はい、綺麗になったわよ?」
「えへへ〜、ありがと〜! 先生もたこ焼き、あ〜ん」
陽向先輩が差し出したアツアツのたこ焼きを、静香先生は小さく笑って口を寄せた。
「あむ……ふふ、美味しいわ」
「うん〜っ! 美味しいね〜!」
夏の夜風が吹き抜ける中、境内はそれぞれの賑やかな空気に包まれていた。




