57話「浴衣姿は誰のため?」
「なあ、西条?」
神社の境内に向かう参道の途中で、直哉がどこか悔しそうな顔で話しかけてきた。
「どうした?」
「俺さ……さっき海の家でナンパされたんだよ」
「そうか」
「そしたら、王城のやつが飛んできて『不潔ですわ!』とか言って追い払いやがって……!」
「おう」
「くそー、せっかくのモテ期が……!」
「そうか、大変だな、お前も」
俺の適当すぎる相槌に、直哉はがくっと肩を落としたものの、すぐに前向きな笑顔を取り戻して拳を握りしめた。
「まあいいか! お祭りが終わったら、夏休み後半はガッツリダンジョン行こうぜ!」
「そうだな」
「約束な?」
「分かった分かった、約束だ」
男二人でそんな約束を交わしていると、着替えを終えた女子たちが境内から歩いてきた。
「兄さん!」
「おっ、忍……」
紺色の小花柄の浴衣を纏った忍。
照れくさそうに裾をぎゅっと掴んでいる。
「……どうですか?」
「すごく似合ってるよ、忍」
「はいっ! ありがとうございます、兄さん!」
忍が満面の笑みを咲かせた直後、横からふわりと甘い香りが漂ってきた。
「後輩く〜ん、私はどうかな〜?」
薄黄色の生地を纏った陽向先輩が、無防備に俺の腕へしがみついてくる。
豊満な胸元が腕に当たり、少しドギマギする。
「せ、先輩もすごく似合ってます……から、あの、それ以上近づかないでください!」
「ダメ〜……?」
「はい、ダメです!」
「陽向? 迷惑かけないの」
後ろから歩いてきた静香先生に首根っこを掴まれ、陽向先輩は「は〜い、先生〜」と名残惜しそうに離れていった。
すると、俺の後ろで直哉が「クイクイ」と誰かに服の裾を引かれているのに気づいた。
「……? どうした、王城?」
振り返ると、そこにいたのは静香先生から借りた華やかな和柄の浴衣を着た舞香だった。
金髪ツインテールと浴衣のギャップに、直哉が一瞬目を丸くする。
「葛西さん……わ、わたくしはどうでしょうか……?」
上目遣いで恥ずかしそうに尋ねる舞香に、直哉は親指をグッと立ててニカッと笑った。
「おお! 金髪でも浴衣ってめちゃくちゃ映えるんだな! すげえいいと思うぞ!」
「ッッッ……! ふ、ふん! 感謝いたしますわ……!」
直哉の真っ直ぐな褒め言葉に顔を真っ赤にし、舞香は扇子で顔を隠しながらそっぽを向いたのだった。




