56話 先生の浴衣
海の家の一角にある静香先生の部屋で、女子たちの浴衣の準備が始まっていた。
「陽向、貴方はこれね」
「はい! 先生、ありがとう〜!」
手渡された薄黄色の浴衣を胸に抱え、陽向先輩はふと首をかしげた。
「あれ……? これって、先生が昔着ていたやつよね〜?」
「そうね。貴方にはそれが一番似合うと思って取っておいたのよ」
「えへへ……嬉しいな〜♪」
懐かしそうに目を細める二人を見ながら、静香先生は次に舞香の方を振り返った。
「王城さん、貴方は私の少し前の浴衣ならサイズも合いそうね」
「ええ! 貸していただけるのなら、なんでも嬉しいですわ!」
「ふふ、はい。着替えて来なさい?」
「「は〜い!」」
陽向先輩と舞香が嬉しそうに試着スペースへと向かい、部屋には静香先生と忍の二人だけが残された。
重く引き締まった空気が流れる。静香先生は白衣のポケットに手を突っ込み、眼光を鋭くして忍を見つめた。
「……さて。貴方」
「なんですか?」
忍はどこまでも平然とした顔で首を傾げる。
「陽向に……何をしたの?」
学園最強クラスの凄みが忍を圧迫するが、忍は不敵な笑みを崩さなかった。
「……? ああ、そうですね? 『神同士』、少しお話をしただけですよ」
「……本当に、それ以外何もしていないでしょうね?」
「はい、大丈夫ですよ? ——そっちが『約束』を守るなら、ね」
言外の脅迫を含んだ忍の言葉に、静香先生は小さく溜息をつき、追及を横に置いた。
「……分かったわ。それと、貴方に貸す浴衣だけど……かなり昔のになるわね。特に、その……胸のあたりが……ね?」
「ええ、構いませんよ? それより……自分で魔力で出してもいいですが、疲れちゃいますからね」
「そう。じゃあ、これね」
静香先生から手渡されたのは、落ち着いた紺色に可愛らしい小花が散りばめられた、少し小ぶりな浴衣だった。
「ふふ……兄さん、喜んでくれるといいな」
忍はそれを愛おしそうに撫で、着替えへと向かった。




