53話 私が塗ってあげますね?
「撫でて〜?」
陽向先輩は甘えたような声で首をかしげ、俺の顔を覗き込んできた。
(えっ……いいのか? 先輩だぞ……? ええーい、もう知らん!)
覚悟を決めて、俺は先輩の柔らかい茶髪にそっと手を置き、優しく撫でた。
「なで、なで……」
「えへへ〜……」
陽向先輩は猫のように気持ちよさそうに目を細め、俺の手に頭をすり寄せてくる。
その無防備な仕草があまりにも無邪気で、胸がドカンと跳ねた。
すると次の瞬間、先輩は羽織っていた白衣をすっと肩から滑り落とさせた。
「後輩く〜ん」
「な、何ですか……!?」
「日焼け止め、塗って〜?」
「それは……流石にマズいですって!」
「ダメ〜……?」
上目遣いでうるうるとした瞳で見つめられ、俺の理性がガラガラと音を立てて崩れ去る。
「……分かりました。早く終わらせますからね!?」
俺は手元にあった日焼け止めを手に取り、背中に伸ばしていった。
吸い付くような白い肌と柔らかい感触に手が震える。
「はふぅ……ん、もっと下……お尻の方も塗ってぇ……?」
「ッッッ……!?」
「全身、塗って……?」
「それは流石に、ダメです!」
パニックになりかけたその時、陽向先輩は「ねっ?」と可愛らしく小首をかしげながら、胸元のビキニの紐に手をかけ——するりと解いてしまった。
「前も……お願いね〜?」
「ッッッ!!?? せ、先輩っ、それは本当にアカンやつです!!!」
眼前で開放されかける豊満な胸元と圧倒的な肌色に、俺の脳内が暴走しかけたその瞬間。
「陽向先輩? ——私 が 塗 っ て あ げ ま す ね ?」
氷点下を突き抜けるような冷気とともに、ぬれねずみになった忍がいつの間にか俺たちの背後に立ち尽くしていた。
「えっ……?」
「ほら兄さん! 波打ち際で葛西さんたちが呼んでますよ? 行って来てください。次は私が荷物番をしますから!」
「あ、おう……!」
あまりの威圧感に気圧され、俺は逃げるようにその場を後にした。
取り残されたパラソルの下で、忍は冷たい眼光で陽向先輩を見下ろした。
「陽向先輩……?」
「あ、なあに〜……?」
陽向は、先ほどまでとは違う忍の冷たい声にも、不思議そうに首をかしげるだけだった。
忍は日焼け止めを手に取ると、一切の容赦なく先輩の背中や肌へ力任せに塗りたくり始めた。
「あっ……だ、だめぇっ! くすぐったいからぁ……っ!」
「兄さんを誘惑しようとするとは……とんだ変態ですね? 徹底的に塗り込んで差し上げますね?」
——数分後。
「ふぅ……」
日焼け止めを塗りたくられた、陽向先輩は、ビキニの紐を結び直された状態でパラソルの下にクタクタになって倒れ伏していた。
「あ、ありがとう……忍ちゃん……」
ぐったりとしている先輩を横目に、忍は満足げに手を拭い、兄が泳ぐ海の方へと熱い視線を向けるのだった。




