50話 弱い妹は兄さんに守られたい
「あれ? 忍、まだ着替え終わってないのか?」
浜辺を見渡しても、一緒に来たはずの忍の姿が見当たらない。
「悪い葛西、忍を探してくる!」
「分かった! 俺たちは先に海で遊んでるからな! 行くぞ王城!」
「はいですわ! 待ちなさい葛西さん!」
直哉と舞香が波打ち際へ走っていくのを見送り、俺はパラソルの立ち並ぶ砂浜へと向かった。
「お〜い、忍……どこ行ったんだ?」
人の波をかき分けて探していると、海の家近くの影になった場所で、見覚えのあるピンク髪の少女が男たちに囲まれているのが目に入った。
「いいじゃねぇか〜、一人だろ? ちょっとでいいから付き合ってくれよ〜、なっ?」
「……」
チャラついたナンパ男が、嫌がる忍の肩に馴々しく手を回そうとしている。
「忍!」
「あっ……兄さん!」
俺の声に気づいた忍がパァッと顔を輝かせ、こちらへ駆け寄ろうとした——その瞬間。
ガシッとナンパ男が忍の細い手首を強引に掴み上げた。
「痛いです……っ! うぅ……」
「あっ? なんだお前。急に割り込んできてさ」
「妹から手を離せ」
「あッ? 兄貴か? 減るもんじゃねぇんだから、少し妹さん貸してくれや——」
バシッ!
俺は男の手を思い切りはたき落とし、忍の腕を引いて俺の背後へと庇った。
「走るぞ、忍!」
「はい、兄さんっ!」
「あ、おいてめえぇぇッ!」
男の怒鳴り声が背後で響く。俺は忍の手を固く握り締め、人の多いビーチの広場まで一気に駆け抜けた。
……だが、俺たちが逃げ切れたのは、俺の足が速かったからではない。
男が追いかけようと一歩踏み出した瞬間、振り返った忍と目が合った。
「——」
その場で男の膝から力が抜け、砂浜へへたり込む。
「はぁ……はぁ……ここまで来れば大丈夫か」
立ち止まって息を整えていると、忍が涙目になって俺の胸元へ抱きついてきた。
「兄さん……ッ! 怖かったです……っ!」
「よしよし、災難だったな……よく頑張った」
俺は震える忍の背中を優しく撫でてやった。
「はい……っ!」
(ふふ……あんな雑魚に触られたのは不快でしたけど、兄さんにこうやって強く抱きしめて守ってもらえたんですから、結果オーライですね♪)
俺の胸に顔を埋めながら、忍は口元を歪めて邪悪な笑みを浮かべていた。




