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42話 守ってくれましたよね? 兄さんが傷ついてから

屋上へと続く誰もいない踊り場。


冷たいコンクリートの壁に囲まれた空間で、忍はゆっくりと振り返った。


「陽向先輩?」


「ヒッ……!?」


背後をついてきた陽向の肩が、跳ねるように大きく揺れた。


「お兄ちゃんを守ってくださいと……お願いしましたよね?」


「そ、それは守ったよ!? ちゃんと助けに行ったもん……!」


必死に弁明する陽向に対し、忍は花が咲くような可憐な笑みを浮かべる。


「にこっ」


次の瞬間、陽向の膝から突然ガクリと力が抜けた。


「あ……れ? 足に……力が……」


「ふふ……次は、腕にしましょうか?」



「私っ……守ったもん! だから……ッ!」


「ええ、守ってくれましたよね? 兄さんが傷ついてから」


「ッッッ……!?」


忍の瞳から光が完全に消え去り、底知れぬ暗黒が陽向を射抜いた。


「知ってます? あんな雑魚の目の前で、兄さんが命乞いをしたんですよ……! 私の尊いお兄さんに、そんな無様な真似をさせたんです……!」


「あ……っ……!」


恐怖のあまり、陽向はへなへなと地面に倒れ込んだ。指先一つ動かすことすら許されない。


「陽向先輩? これは忠告です。今度は何があっても、お兄ちゃんを絶対に守ってくださいね? そうしないと——貴方の大切な人を殺しますよ?」


喉元に刃を突きつけられたような殺気に、陽向は青ざめた顔で何度も何度も首を縦に振った。


「ビクッ……こく、こくっ……!」


「ふふ……そんなに怯えないでください?安心してください。これでもっと、お兄ちゃんを最優先にできますよ。」


「や、やだ……っ!」


忍の指先が、抗う術のない陽向の額に「チョン」と優しく触れた。


「あっ……せんしぇい」



陽向の瞳から光が失われ、そのまま糸が切れた人形のようにバタンと床へ倒れ伏した。


「ふぅ……さて、帰りますか。兄さんが待っていますしね」


忍はスカートを軽やかにはためかせ、何事もなかったかのように下駄箱で待つ章のもとへと歩き出した。



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