41話 少し、お話しましょう?
バンッ!
保健室のドアが勢いよく開き、息を荒らげた忍が飛び込んできた。
「兄さん! 無事ですか!?」
「忍……?」
「兄さんが酷い怪我をしたって聞いて、飛んできました……ッ!」
青ざめた顔で駆け寄ってくる忍を見て、俺はベッドの上に体を起こし、彼女の頭に手を置いた。
「心配かけて悪いな……」
ポンポンと優しく頭を撫でてやると、先ほどまでの必死な表情が一瞬で破顔し、忍はうっとりと目を細めた。
「はい……ッ! もっと、もっと強くお願いします……!」
「ほらほら、もう大丈夫だから」
「えへへ……兄さん! もう帰りましょ? 今日はとっても疲れましたよね?」
「いや、でもまだ葛西たちの処置が——」
「帰・り・ま・す・よ? ね?」
可憐な笑顔のまま、一切の反論を許さない圧をかけてくる忍に、俺は苦笑いしながら折れるしかなかった。
「……わかったよ」
「ふふ、良かったです! 兄さんは先に下駄箱で待っていてください。先生に少しお礼を言ってから行きますので」
「おう、じゃあ先に行ってるな」
俺が保健室を後にして足音が遠のいたのを確認すると、忍の表情から一切の温もりが消え去った。冷酷な眼光が、部屋の奥に立つ陽向先輩を射抜く。
「……さてと。陽向先輩? 少し来てくれますか?」
忍の氷のような声に、ベッドの脇に立っていた静香先生がすっと身を乗り出し、白衣のポケットに手を突っ込んだまま立ち塞がった。
「うちの陽向は貸せないわ」
「別に悪いことはしませんよ? ただ、少し『お話』をするだけです」
歪んだ静寂が流れる中、陽向先輩は困ったように眉を下げつつも、静香先生の袖をちょんと引いた。
「先生、私行ってくるね?」
「陽向、大丈夫なの?……分かったわ。陽向、気をつけてね?」
静香先生の鋭い警戒を感じ取りながらも、忍は完璧なアイドルスマイルを浮かべ、首をちょこんと傾げた。
背筋が凍りつくような笑顔を残し、忍は陽向先輩を促して静かに保健室を後にした。




