39話 保健室の先生、強すぎませんか?
「何してるの〜?」
緊張感で引き裂かれそうだった空間に、どこか場違いなほど軽やかで、呑気な声が響き渡った。
「ググ……!?」
デーモンが驚愕に目を剥き、殴りつける手を止める。
見上げれば、そこには教官でも警察でもなく、白衣をふわりと揺らした保健室の陽向先輩——そして、その隣に佇む「保健室の先生」の姿があった。
「にこっ」と優しく微笑む陽向先輩。だが、先生の目は笑っていなかった。
「陽向、貴方は回復を優先しなさい」
「は〜い」
あんなに理不尽で、俺たちの命を容易く弄んでいた巨大なデーモン。その頭部が、先生が静かに差し出した指先一つから放たれた衝撃によって、一瞬で木っ端微塵に貫かれたのだ。
どさりと倒れ込む悪魔の巨体。
「ヒッ……!?」
残されたちびデビルが怯え、倒れている舞香を盾にしようと鉤爪を突き立てかける。
しかし、それよりも早く陽向先輩が手をかざした。
「だめだよ〜?」
眩い光の束がちびデビルを包み込み、悲鳴をあげる暇もなく塵となって消滅させた。
「こっちのこは、気絶してるだけみたいね?」
先生が倒れている直哉の容体を素早く確認し、指示を飛ばす。
「陽向! 西条君、優先ね! 急ぎなさい!」
「はーい! って……後輩く〜ん!? ひどい怪我……っ! 早く治さないと……!」
駆け寄ってきた陽向先輩の手から、暖かな治癒の光が溢れ出し、俺の全身を包み込む。折れていた肋骨と潰れた内臓が、凄まじい勢いで繋ぎ合わされていく。
「先輩……ありが、とう……ございます……」
死の淵から引き上げられた安堵感に、俺はガクッと視界を揺らした。
「後輩くーん! 倒れないで〜っ!」
響き渡る陽向先輩の焦り声を聞きながら、俺は深い意識の闇へと落ちていった。




