38話 命乞い
「……やるしかないのか」
俺は震える膝に力を込め、死に体の体に鞭打ってナイフを構え直した。
だが、眼前で嘲笑う巨大な悪魔を見上げ、圧倒的な生存確率の低さを冷徹に悟る。
(無理だ……正面からじゃ勝てない。俺の命一つで済むなら——)
俺はナイフを床に落とし、両手を挙げてゆっくりと膝をついた。
「お願いです……どうか、見逃してくれませんか!」
俺の悲痛な叫びに、デーモンの巨体がピタリと動きを止めた。
(……止まった? 知性はあるみたいだ……言葉が通じるのか)
交渉の余地があるなら、すがるしかない。俺は床に深く頭をこすりつけた。
「俺だけ……俺の命くらいくれてやる! だから、他の二人は見逃してくれ……頼む……!」
一瞬の静寂の後、頭上から忍び寄る不快な気配。
見上げると、デーモンの口元が歪な三日月のように「ニヤリ」と歪んでいた。
「ッッッ……!?」
次の瞬間、首元を掴まれ、凄まじい力で壁へ叩きつけられた。
ドガンッ!!
「がハッ……!?」
痛みに身悶えする隙もなく、デーモンの丸太のような拳が腹にめり込む。
「おねが、いしま……ッ」
ドスッ!!
「どう……か……っ」
ドスッ!!
声にならぬ哀願すらも、殴撃の音にかき消される。デーモンは生殺与奪の権を握った全能感に浸り、俺の命を弄んでいた。視界が急速に赤く染まり、意識が遠のいていく。
「……やめ……てください……っ」
かすかな、掠れた悲鳴。
霞む視界の端で、舞香がちびデビルたちにおもちゃにされていた。
身動きの取れない彼女の皮膚を、ちびデビルたちが鋭い鉤爪で薄く、少しずつ、楽しむように切り刻んでいく。白い肌に赤筋が増えていく。
「すまない……忍……もう……」
俺の口から血がこぼれ落ちる。
意識の糸がプツリと切れかけたその時——ボス部屋の空気が、凍てつくような「絶対の殺気」によって激変した。




