37話 遊ばれている
「王城ーーッ!!」
俺の叫びも虚しく、その光景はあまりに残酷だった。
小悪魔に殴り飛ばされた舞香の頭を、デーモンは巨大な掌で掴み上げると、まるで地面に愛着でもあるかのように、何度も何度も無造作に叩きつけていた。
ドッ、ドッ、ドッ……。
「ぐっ……や、やめ……なさいませ……っ!」
骨が砕けるような強打ではない。
ただただ軽く、侮辱するように地面に押し付け、グリグリと擦り付ける。
殺すためですらない。
ただ「おもちゃ」として扱っているだけだ。
「西条……お前、大丈夫か……ッ!」
「……なんとか、な」
俺は壁に背を預け、予備のナイフを逆手に握り直した。
全身が鉛のように重い。
デーモンは俺たちの方を振り返ると、ニヤリと歪んだ口元を露わにし、挑発するようにクイクイと指先を曲げた。
「……コノヤローッ!!」
激昂した直哉が、限界を迎えた脚を鞭のようにしならせ、デーモンに肉薄する。
「待て葛西! 正面からは無理だッ!!」
「んなこと知るかぁぁぁッ!!」
直哉は獣のような咆哮を上げ、拳を握り込んで突進した。それを見たデーモンは、まるで熟練のファイターのように重心を落とし、拳をガードポジションに構える。
――ボクシングスタイル。
「え……?」
その刹那、デーモンの身体が信じられない速度で沈み込んだ。
直哉の突き出した拳を最小限のウィービングでかわすと、デーモンは流れるようなコンビネーションを直哉の脇腹へ叩き込む。
バキッ、ボコッ!
「がはっ……!」
身体の深部を揺さぶる重い打撃が直哉の動きを止め、防御の隙間を作らせた。
デーモンが大きく右腕を振り抜く。
ガッ!!
完璧なアッパーカットが、直哉の顎を容赦なく撃ち抜いた。
空高く弾き飛ばされた直哉の身体から、糸が切れたように力が抜ける。
そのまま床へ、ドサリと崩れ落ちた。
「葛西っ……!!」
沈黙。
ボス部屋に、冷たい静寂だけが戻ってきた。
動かなくなった直哉を見下ろし、デーモンは再び俺の方へゆっくりと視線を向けた。




