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35話 生きて帰るために

「ここか?」


鬱蒼と茂る森の奥、巨大な亀裂のような洞窟の入口を見上げ、直哉が息を呑んだ。


「そうみたいだな……」


俺は腰の小太刀の柄に手を置き、洞窟から溢れ出る不気味な魔気を警戒する。


「行くぞ?」


舞香を後方に、俺たちは洞窟の闇へと足を踏み入れた。


——その瞬間。


ゴゴゴゴゴ……ッ!!


背後で地鳴りのような重低音が響き、入ってきたはずの入口が岩肌ごと削ぎ落とされたかのように、跡形もなく消え失せた。


「……?」


「どういうことだ……!? 出口がないぞ!?」


「なんですの……!? 壁が急に塞がって……!」


「これは……ヤバいかもな」


閉じ込められたのは入口だけではなかった。


『——グオオオオオオオッ!!』


逃げ場のない極限状態の中、俺たちを襲ったのは、上位種モンスターの群れだった。


「やるしかない」


一体目を斬った瞬間、小太刀の刃が欠けた。


「硬っ……!」


横から迫った爪を直哉の槍が受け止める。その穂先まで砕け散った。


「西条! こいつらDランクじゃねえぞ!」


舞香の魔法が群れを吹き飛ばす。しかし、倒しても倒しても暗闇の奥から次が現れた。

◇


「ぐっ……ハァ、ハァ……ッ!」


激しい乱戦の末、俺は膝をつき、肩で荒い息を吐いた。全身傷だらけだ。


「おい……ハァ、ハァ……西条、大丈夫か!?」


直哉も槍を杖代わりにし、全身を血に染めながら必死に立ち上がっている。


「悪い……小太刀が折れた」


俺は半分からぽっきりと折れ曲がった愛用の小太刀を握りしめ、苦い唾を飲み込んだ。まともな攻撃手段が一つ潰された。


「俺の槍も……先が欠けてる。固すぎるんだよ、ここの奴ら……!」


「ごめんなさい……っ! 私のせいで……っ!」


舞香が激しく消耗した身体を震わせ、今にも泣き出しそうな顔で謝罪する。彼女の制服も破れ、魔法の行使による魔力が切れかかっている。


「ハァ、ハァ……心配するな、王城」


直哉が血に濡れた顔で、なんとか強がりの笑みを浮かべてみせる。


「生きて出ることが最優先だな……? 西条!」


「……そうだな。教官も言っていた。生きて帰るのが全てだ」


俺は折れた小太刀を捨て、太刀を引き抜いた。


「葛西さん……西条さん……っ」


舞香は涙を拭い、二人から教わった「死線での覚悟」を胸に必死に頷いた。


「……ここがボス部屋みたいだな」


目の前には、これまでの階層とは比較にならないほど広大なドーム状の空間と、その奥で妖しく蠢く巨大な影。


「ああ……腹を括るしかないな」


俺たちは満身創痍の身体を奮い立たせ、ボス部屋へと一歩を踏み出した。



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